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さきみだ
吾等の
上陸した
邊は
自然の
儘なる
芝原青々として、
其處此處に、
名も
知れぬ
紅白さま/″\の
花が
咲亂れて、
南の
風がそよ/\と
吹くたびに、
陸から
海までえならぬ
香氣を
吹き
送るなど
盛りと
咲亂れえも云れぬ
景色に寶澤は
茫然と暫し
木蔭に
休らひて
詠め居たり此時
遙の
向より年頃四十
許の男
身に
編綴といふを
纏ひ
歩行來りしが
怪しやと思ひけん寶澤に向ひて名を
ここに、小さな
唐草蒔絵の車があった。おなじ蒔絵の台を離して、
轅をそのままに、
後から押すと、少し
軋んで毛氈の上を
辷る。それが
咲乱れた桜の枝を伝うようで、また、
紅の霞の
浪を漕ぐような。