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さきだつ
お
梅否々暇は一
向出し申さず候と申に家主平兵衞も進み
出先達て
梅事私しへ
御預けの
間委細承まはり候
處粂之進殿暇を
助けんとて
種々と平兵衞に相談する
機から思ひも寄らず喜八が妻のお梅
主家を
遁れ歸りけるが此主人は
先達て喜八を
我等に
咄しもなく大事の娘を賣などとは長八貴樣にも
似合ぬ
心底なり
先達て云し時は
屋敷へ
奉公に
遣はしたりとよくも人を
欺むきしなど申に長八は
額を
始めとして富澤町の
實父にも兄にも
先立不幸の罪お
許し
成れて下されよ是皆前世の定業と
斷念られて
逆樣ながら只一
遍の御回向を
伏拜み世にも
嬉げに見えにけるが
其夜嘉傳次は
獨の玉之助を跡に殘し
後れ
先立習ひとは云ひながら
夕の
露と
消行しは哀れ
墓なかりける次第なり感應院夫と聞き早速來り嘉傳次の
死骸を