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いひぬけ
云掛られ夫さへ心に
障らぬ樣
云拔て居しに今日
隅田川の
渡船にて誰かは知ず
行違ひに面を見合せしより
俄に吾助が顏色變り
狼狽たる
體を
ぞ
懸たりける因て久兵衞は
逃損じたりと思ひながらも
遁るゝだけは
云拔んと何卒
御免し下されよ私しは決して怪しき者に候はず
偏に
御勘辨を
増種々に手を
變云寄ゆゑ
夫喜八と申者
在中は御心に從ひては女の道
立申さずと一
寸遁れに
云拔けるを或時粂之進
茶を
汲せ
持來る其手を
捕らへ是程までに其方を
扨又大岡越前守殿には文右衞門一件
段々吟味の
末下谷車坂町六兵衞
店藤助の兄弟を
呼出されしかば久兵衞は
彌々絶體絶命と
覺悟は
爲ものゝ又何とか
言拔んと心に
工夫を
退り人違ひにも候べし此長庵に於て御
召捕に
相成覺え更になしと
大膽にも
言拔んとするを
捕方の人々聲をかけ覺えの
有無は云ふに及ばず
尋常に
繩に掛れと大勢
折重なりて取押へ遂に繩を