くら)” の例文
りたてのかべ狹苦せまくるしい小屋こや内側うちがはしめつぽくかつくらくした。かべつち段々だん/\かわくのが待遠まちどほ卯平うへい毎日まいにちゆかうへむしろすわつてたいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
つみおとし入んと計りくらき夜に昌次郎と兩人ふたりにて男女をころし悴娘の着類をきせ兩人の首をきつて川へ流せしおもむき最早兩人より白状はくじやうに及びしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
新吉は電光いなびかりの時に顔を見られないようにすると、其の野郎もらいが嫌いだと見えてく見る事も致しません。電光の後でくらくなると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御製では、「くらけくに夜のほどろにも鳴きわたるかも」に中心があり、闇中あんちゅうの雁、暁天に向う夜の雁を詠歎したもうたのに特色がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
鬱蒼うっそうとして頭上におおい被さって来そうな真っくらな寺門を振り返るのも恐ろしくて、私はただひた走りに息の続く限り走っていた。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
冬至までは、日がます/\つまって行く。六時にまだ小暗おぐらく、五時には最早もうくらい。流しもとに氷が張る。霜が日に/\深くなる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「サア何時いつと限った事もありませんが、マアくらい時の方が多いようですね、ツマリくらいから其様そん疎匆そそうをするのでしょうよ」とすましている。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こもりますに因りて、天の原おのづからくらく、葦原の中つ國も皆闇けむと思ふを、なにとかも天の宇受賣うずめあそびし、また八百萬の神もろもろわらふ」
提灯の火影に照らして、くらき夜道をものともせず、峻坂しゅんはん嶮路けんろおかして、目的の地に達せし頃は、午後十一時を過ぎつらん。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
友もやゝ酔つた様子で、やうや戸外おもてくらくなつて行くのを見送つて居たが、不意に、かうたづねられて、われに返つたといふ風で
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
大洋上に出た船、而かも真夜中のくらい潮の中で船火事などの起った場合の心細さ絶望的な悲しみは到底筆につくしがたい。
梟啼く (新字新仮名) / 杉田久女(著)
かくて売られた女が淫売を強いられ、くらい社会にうようよ生きているさまは四馬路や師孝徳路あたりで見らるる通りである。
くらいところから呼んでいるのは女の声。ちょうどその時分、他に往来がとだえていたから、友造を見かけて呼んだものに違いないと思われます。
春星しゆんせいかげよりもかすかに空をつゞる。微茫月色びばうげつしよく、花にえいじて、みつなる枝は月をとざしてほのくらく、なる一枝いつしは月にさし出でゝほの白く、風情ふぜい言ひつくがたし。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
つまり、甚右衛門と親分との中間あいだに立って鎖の役を勤めようという、これは昼日中でさえ相当の難事なのに、かてて加えてこのくらさ、この吹降り。
弟は車のながえを掴んで、その彼女をじっと待っていた。それから彼らはくらい道をてんでに別なことを考えつつ引き返えした。途中で雨が降ってきた。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
戸を開けて恐る恐る外を見て私はためらった。ヒューヒュー風が吹いていて外はくらだった。遠くの方からかちかちと火の番の拍子木ひょうしぎの音が聞える。
土穀祠おいなりさまの中は、いっそうまっくらだった。彼は大門をしっかり締めて、手探りで自分の部屋に入り、横になって考えた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
その行灯がまた古風こふうな陰気なもので、いっそ吹き消してくらがりにした方が、かすかな光に照らされる無気味さよりはかえって心持が好いくらいだった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
島を囲む黒いさゞなみがぴたぴたとそのいしずゑを洗ふ如くに、夜よりもくらい無数の房々がその明るい大広間を取り巻いてゐる。
春先とはいえ、寒い寒いみぞれまじりの風が広い武蔵野むさしのを荒れに荒れて終夜よもすがらくら溝口みぞのくちの町の上をほえ狂った。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今しがたまで見えた隣家の前栽せんざいも、蒼然そうぜんたる夜色にぬすまれて、そよ吹く小夜嵐さよあらしに立樹の所在ありかを知るほどのくらさ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「すなわち高天原たかまのはら皆暗く、葦原中国あしはらのなかつくにことごとにくらし」というのも、噴煙降灰による天地晦冥かいめいの状を思わせる。
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ちょっと忍び込んでみたくなる位である。多分、あの樫の木のくらがりが御自慢なのであろうが、混凝土コンクリートを喰った証拠に混凝土コンクリートの家を建てるのはドウカと思う。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
雨をおかして非常に樹のえ茂って居る急な坂を二里ばかり登るとくらくなった。例のごとく下僕しもべつぶやき出した。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あたり一面はくらいのに、ヘッドライトに照された景色だけは昼のようです。そうしてその光景を展開させながら真黒な怪物が爆音を立てて驀進ばくしんして行くのです。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
常人つねなみのひとならばといひてにぐべきに、さはなくてその方に身をむけてつら/\見るに、かうくらくなりしにかゝるものゝあり/\と見ゆるもたゞ人ならじと猶よく見れば
昨夜ゆうべ出て一の関へ泊りましたか、それとも今朝くらい内に一の関までけましたか、一番汽車へ乗れば晩の六時頃上野へ着く勘定ですが日本一の不規律鉄道
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と声をかけてみると、すっと内から硝子戸が一尺ばかり開いてそっと、白い顔を出したのは、中の電燈を後に背負って、くらがりではあるが、たしかに彼女である。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
名宣なのられし女は、消えもらでゐたりし人陰のくらきよりわづかにじり出でて、面伏おもぶせにも貫一が前に会釈しつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
達吉たつきちは、天地てんちくらだった。大波おおなみが、自分じぶんんだ。からだ前後上下ぜんごじょうげれていた。わずかに、けると、しっかりと自分じぶんはけやきのえだにしがみついていた。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
くらい空間は、明りのようなものを漂していた。併し其は、蒼黒いもやの如く、たなびくものであった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
彼は前夜の夢路をたどるもののごとく心細く歩きたるが、早や黄昏たそがれすぎてくらきころ、思いがけなく一群の人の此方に向いて来たるに遇えり、彼は立ち留りて窺いたるに
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
ここを以て東は明るく西はくらし、天に三段ありてカクーの天最高所にあり、ブロク猴の大きさ山ほどなるがこれを守り、その天に登って天菓をぬすまんとする者を見れば
なおくらき杉の並木、羊腸の小径は苔なめらか、一夫関に当るや万夫も開くなし、天下に旅する剛毅の武夫もののふ、大刀腰に足駄がけ、八里の岩ね踏み鳴す、くこそありしか往時の武夫
箱根の山 (新字新仮名) / 田中英光(著)
この港はかつて騎馬きばにて一遊せし地なれば、我が思う人はありやなしや、我が面を知れる人もあるなれど、海上けむめてなみもおだやかならず、夜のくらきもたよりあしければ
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雨雲はおちかかるばかりにくらけれど、ひさしく住みなれし里なれば迷ふべうもあらじと、夏野わけ行くに、いにしへの七六継橋つぎはしも川瀬におちたれば、げに七七駒の足音あおともせぬに
卓子台ちゃぶだいが出してある。賢一郎、役所から帰って和服に着替えたばかりと見え、くつろいで新聞を読んでいる。母のおたかが縫物をしている。午後七時に近く戸外はくらし、十月の初め。
父帰る (新字新仮名) / 菊池寛(著)
桟敷がくらくなる。さすが会員組織で客を集めただけあって、所々の話声がぱったりむ。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あり得べからざる悲劇が目前に演じられているのだ。作る者もあがなう者も何が起りつつあるかを知らないのだ。今日も東に日は昇るとも、工藝の世界はくらい夜に封じられているのだ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
東方ひがしより金芒きんぼうらんとして飛ぶ、槍も穂高も、半肩以上は微黄となり、以下は大天井岳をはじめ、その一帯山脈の影が、かぶさるのでくらい衣をている、日の昇るに伴れて、附近の大山岳
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
雨いたく降りこめばにや雨戸残りなくしめこめていとくらし、いと子君伯母なる人に向ひて、御覧ごろうぜよ樋口さまのおぐしのよきこと、島田は実によく似合給へりといへば、伯母君も実になり/\
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
内面史だといふから、随分自分達の利益ためにならないくらい事をも書き残さなければならぬ筈だが、都合がい事には、森久保氏はすべて自分の利益ためにならぬ事は何でも忘れるといふ秘伝を知つてゐる。
たとへば夜けてから澤山の獲物えものを持ツて獨でくらい路を歸ツて來ると、不意に行方ゆくてから、人魂ひとだまが長く尾を曳いて飛出したり、またはのかはうそといふ奴が突然だしぬけ恐ろしい水音をさせて川に飛込むだり
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
くらきあらしに驚けば海原うなばらとくもかはりつゝ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
深緑しんりよくくらよる——ふる雨の黒いかがやき
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
屋外やぐわいは真ッくら くらくら
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
かけてまたときつ思案しあんにもつるゝ撚糸よりいと八重やへなげきはまたことなりしげ若葉わかばさまたげとおほせられしはことならずやくらまよひとたんたまへどさとりたればこその御取持おとりもちなれおもなかのお兩方ふたかた生涯しやうがいのぞみもたのみも御讓おゆづり申しておもくこと些少いさゝかなきを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
船頭せんどうくら小屋こやをがらつとけてまたがらつとぢた。おつぎはしばらつててそれからそく/\とふねつないだあたりへりた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
掛内に這入はひりふしみ居し折柄をりから燒場の外面おもての方に大喧嘩おほげんくわが始りし樣子故何事かと存じそつと出てうかゞひしにくらき夜なれば一かうわからず暫時しばらく樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)