たま)” の例文
あらはすと、くわくおほい、翡翠ひすゐとかいてね、おまへたち……たちぢやあ他樣ほかさま失禮しつれいだ……おまへなぞがしがるたまとおんなじだ。」
鳥影 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
算術の最も易い寄せ算をするにしても、散る氣でもつて運算して居たら、桁違をしたり、餘計なたまはじき込んだり仕さうな事である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そして、ひすいのたまをたくさんっているものほどえらおもわれましたばかりでなく、そのひとは、幸福こうふくであるとされたのであります。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
昼すら真夜まよに等しい、御帳台みちょうだいのあたりにも、尊いみ声は、昭々しょうしょうたまを揺る如く響いた。物わきまえもない筈の、八歳の童女が感泣した。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
小人しょうじんたまを抱いて罪あり、例の孫策が預けておいた伝国でんこく玉璽ぎょくじがあったため、とうとうこんな大それた人間が出てしまったのである。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
掌中のたまを奪われたばかりか、ことごとわが身を嘲弄される。父の前に現れた仲綱は、父への恨みもまじるまなざしを投げながら訴えた。
ラヂオは傳へる式殿の森嚴しんげんを、目もあやなる幢幡どうばん、銀の鉾射光ほこ・しやくわうたまを。嚠喨りうりやうと鳴りわたる君が代の喇叭らつぱ金屏きんべうの前に立たします。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
で、そこだけが窪んでいて、二つのたまめ込まれていて、その珠の中央に、うるしが点ぜられていた。それはそっくり眼であった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鶴ほどに長い頸の中から、すいと出る二茎ふたくきに、十字と四方に囲う葉を境に、数珠じゅずく露のたま二穂ふたほずつぐうを作って咲いている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その後に彼は城中の町へゆくと、胡人こじんの商人に逢った。商人はその頭にたまのあることを知って、人をもって彼を誘い出させた。
柳の家はますます富んで珍らしいたまが多かった。それを世間に出してみると、いろいろの珍らしい物を見ている家柄の家でも知らなかった。
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
と心配をして居るうちに、十月とつき経っても産気附かず、十二ヶつき目に生れましたのが、たまのような男の、続いてあとから女の児が生れました。
清澄の茂太郎なるものは、まことにたまのような美少年でありました。天成の美少年である上に、その芸をかえる度毎に、よそおいをかえました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長者ちょうじゃの方でも一生懸命でした。金の日の丸のおうぎで雷の神を招き落とさなければ、とうていその不思議なたまを手に入れることが出来ないのです。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ところで昨夜は手始めに六丁目の桜屋六兵衛に押入り、六兵衛が掌中しょうちゅうたまと可愛がっている一人娘のお美代を殺害して来た。
かけきしにいままへてもふがかなしき事義じぎりぬじようさまの御恩ごおん泰山たいざんたかきもものかずかはよしや蒼海そうかいたま
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たまは美しい貝又は小石。中には真珠も含んで居る。「紀のくにの浜に寄るとふ、鰒珠あはびだまひりはむといひて」(巻十三・三三一八)は真珠である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
急に君子顔を装ったとて、また言葉だけにたまをつらねたとても、音調に得た所がなければ、聴衆の嘲弄ちょうろうを招くばかりである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
岸本は節子に珠数ずずを贈った。幾つかの透明な硝子のたまをつなぎ合せて、青い清楚せいそ細紐ほそひも貫通とおしたもので、女の持つ物にふさわしく出来ていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
然りといへども小人しょうじんにしてたまを抱けばかならずあやまちあり。鏡につらをうつして分を守るは身を全うするの道たるを思はば襤褸買必しも百損といふを得んや。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私はけてかえって祖母おばあさんに訴えた。祖母さんはだまって白い台紙に張りつけた、さんごじゅまがいの細かいたまのついた網を求めさせてくれた。
あなたは宝のたまのように、かわいがればかわいがるほど光が出てくる人だってことを、私ちゃんと知っててよ。あなたはどろだらけな宝の珠だわ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
涼風一陣吹到るごとに、ませがきによろぼい懸る夕顔の影法師が婆娑ばさとして舞い出し、さてわ百合ゆりの葉末にすがる露のたまが、忽ちほたると成ッて飛迷う。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
順番が来て庸三がそばへ行くと、不幸者をいたわるような態度にかえって、叮嚀ていねいに水晶のたまころがし、数珠じゅずを繰るのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
午後になると帰って来る。両腕に力を入れ、前俛まえかがみになって、みあげにあせたまをたらして、重そうに挽いて帰って来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
王冠をあたまにのせて、王しゃくを片手にもって、王さまのしるしの地球儀のたまを、もうひとつの手にのせていました。
またこのたまは下るにあたりてその紐を離れず、光のすぢを傳ひて走り、さながら雪花石アラバストロうしろの火の如く見えき 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
江戸えど民衆みんしゅうは、去年きょねん吉原よしわら大火たいかよりも、さらおおきな失望しつぼうふちしずんだが、なかにも手中しゅちゅうたまうばわれたような、かなしみのどんぞこんだのは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
又曰、(五雑組おなじつゞき)恵王けいわうわたりいつすんたま前後車をてらすこと十二じようの物はむかしの事、今天府みかどのくらにも夜光珠やくわうのたまはなしと明人みんひと謝肇淛しやてうせつ五雑組ござつそにいへり。
たまに貫いて頸に掛ける風習のごときは、遠い上代においてすでに公の服制から脱落して、絵にも歌にも取り上げられずに、千数百年を経てしまい
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
数珠じゅずを持っての勘定で、ちょっと二と五とを合わせる時分にも、まず二のたまを数えて置いて、次に五の珠を数え
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
また或る家では女の子が、ランプの光の下に白くひかる貝殻を散らしておはじきをしていた。また或る店ではこまかいたまに糸を通して数珠じゅずをつくっていた。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
おのれたまあらざることをおそれるがゆえに、あえて刻苦してみがこうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々ろくろくとしてかわらに伍することも出来なかった。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
疾雷しつらい耳をおおうにいとまあらず、役人と役人と評議相談のない間に、百五十両とう大金をかすめてもって来たその時は、あたかも手に竜宮のたまを握りたるがごとくにして
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
蕪村の天材は咳唾がいだ尽くたまを成したるか、蕪村は一種の潔癖ありて苟も心に満たざる句はこれを口にせざりしか、そもそも悪句は埋没して佳句のみ残りたるか。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
くらくなった空を仰いで、M君は、あれが北斗だろうという。わらがとれてから、草鞋と足袋たびとの間にはさまる雪のたまになやまされる。ついに足袋のひもがずれる。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
わんふたをとれば松茸まつだけの香の立ち上りてたいあぶらたまと浮かめるをうまげに吸いつつ、田崎はひげ押しぬぐいて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
大鼻の頭に汗のたまを浮べながら、力一杯片膝下に捻伏ねじふせているのは、娘とも見える色白の、十六七の美少年、前髪既に弾け乱れて、地上の緑草りょくそうからめるのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
雲飛は所謂いはゆ掌中しやうちゆうたまうばはれ殆どなうとまでした、諸所しよ/\に人をしてさがさしたが踪跡ゆきがたまるしれない、其中二三年ち或日途中とちゆうでふと盆石ぼんせきを賣て居る者に出遇であつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
大粒の真珠の一つたまをつけたピンを身体の何処かに、あらはにしないで使用するのがふさはしい。
「ホラたまちゃん(妾の名、珠枝たまえというのが本当だけれど)——このカンカンをみておやりよ……」
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「これはかいの火という宝珠ほうじゅでございます。王さまのお言伝ことづてではあなたさまのお手入れしだいで、このたまはどんなにでも立派りっぱになるともうします。どうかおおさめをねがいます」
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しほたま一八を出して溺らし、もしそれ愁へまをさば、しほたまを出していかし、かく惚苦たしなめたまへ
小さい姫君は非常に美しくて、夜光のたまと思われる麗質の備わっているのを、これまでどれほど入道が愛したかしれない。祖父の愛によく馴染んでいる姫君を入道は見て
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
湯が沸いて「四辺泉のくが如く」「たまを連ぬるが如く」になつた。もうすこしすると「騰波鼓浪とうはころうの節に入り、ここに至つて水の性消えすなわち茶を煮べき」湯候ゆごろなのである。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
左手に赤いたまを持っているのから考えると金光明経のみが典拠でなかったことも明らかである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それが見る見るうちに大きい露のたまになって、長い睫毛にまつわって、キラキラと光って、あなやと思ううちにハラハラと左右へ流れ落ちた……と思うと、やがて、小さな唇が
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お池には赤と白のはすの花が咲いて、その葉の上には、水晶すいしょうたまのようにつゆがたまっていました。お池のふちには、きれいなさざなみが立って、おしどりやかもがうかんでいました。
浦島太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
船頭は慌てゝとまいた。其下に一家族は夕立のすさまじく降つて通る間を輪を描いて集つて居た。銀線のやうな雨が水の上に白いたまを躍らしてゐるのをとまの間から少年達は見て居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
赤い、細い緒が通って、緒じめには、何やら名の知れぬ、青く輝くたまがつけてあった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)