“場(ば)” の例文
講談に於ける「怪談」の戦慄、人情本から味(あぢは)はれべき「濡(ぬ)れ場(ば)」の肉感的衝動の如き、悉(ことごと)く此れを黙阿弥劇の中(うち)に求むる事が出来る。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼等の忠告のすぐその後で、すぐその場へ行くといふ事が、彼等に対する憤懣の唯一の遣(や)り場(ば)であり、彼等に酬(むく)いる唯一の道なんだ!
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
この小さなありたちは、しばらくするうちに、みんなで しんじゅをみつけだして、その場(ば)へ 山のようにつみあげてくれました。
千住大橋(せんじゅおおはし)に近く野菜市場があって、土地の人はヤッチャ場(ば)といいました。その市場の左右に並んだ建物は、普通の住宅と違います。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ほんとうに、このときばかりは怒(おこ)って、清(せい)ちゃんの後(あと)を追(お)いかけました。清(せい)ちゃんは、逃(に)げ場(ば)を失(うしな)って、酒屋(さかや)さんの店(みせ)へ飛(と)び込(こ)みました。
仲よしがけんかした話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて洗(なが)し場(ば)に出て洗い桶(おけ)を持って来るときは、お湯に逆上(のぼ)せてふらふらしたが、額を冷水で冷したり、もじもじしているうちに癒(なお)った。
快走 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
インケツの松(まつ)と名乗って京極(きょうごく)や千本の盛(さか)り場(ば)を荒しているうちに、だんだんに顔が売れ、随分男も泣かしたが、女も泣かした。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
要吉(ようきち)は、東京の山(やま)の手(て)にある、ある盛(さか)り場(ば)の水菓子屋(みずがしや)の小僧(こぞう)さんです。要吉は、半年(はんねん)ばかり前にいなかからでてきたのです。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
このことを、どの鳥もよく知っていて、嵐(あらし)の吹きすさぶ季節(きせつ)には、たくさんの鳥がこの大きな家々の縁(えん)がわや露台(ろだい)をかくれ場(ば)にするのでした。
『さあ、運動場(ば)へ行きませう、花木さんはお姉(ねえ)さんぢやありませんか。お姉(ねえ)さんが泣いてはをかしいですね。瑞木さんももう泣かないでせう。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
眼(ま)のあたり、斯(こ)うした荘厳無比(そうごんむひ)の光景(ありさま)に接(せっ)した私(わたくし)は、感極(かんきわま)りて言葉(ことば)も出(い)でず、覚(おぼ)えず両手(りょうて)を合(あ)わせて、その場(ば)に立(た)ち尽(つく)したことでございました。
奉行(ぶぎょう)の声がかかったので、卜斎はからくも引分(ひきわけ)のていで引きさがったが、群集(ぐんしゅう)は正直(しょうじき)である。村上賛之丞(むらかみさんのじょう)のたまり場(ば)へむかって歓呼(かんこ)を浴(あ)びせた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは人に追(お)われて逃(に)げ場(ば)を失(うしな)った狐(きつね)が、ほかの慈悲(じひ)深(ぶか)い人間(にんげん)の助(たす)けを求(もと)めているのだということはすぐ分(わ)かりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「いや、そんなものは見えない。しかし島の左のはしのところを見てごらん。舟(ふな)つき場(ば)らしい石垣が見えるじゃないか」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仮令彼女の里方は廣介の常套(じょうとう)手段によって、懐柔(かいじゅう)せられたとしても、彼女自身の遣(や)り場(ば)のない悲しみは、どう慰めようすべもないのでありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
嬉(うれ)しくツて/\、雀躍(こをどり)をするやうな足(あし)どりで、「やつちあ場(ば)ア負(まか)つたい。おう、負(まか)つた、負(まか)つた、わつしよい/\。」
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、合引橋(あいびきばし)の泳ぎ場(ば)で、新富町の寄席(よせ)、内川(うちかわ)亭にいる娘が泳いでいたのを、別品(べっぴん)女中を連れて游(およ)ぎに行くと出ている。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
港内の左右には幾十の荷揚場(ば)が列(つらな)り、殊(こと)に陸に沿うた左の方には天井を硝子(ガラス)張にした堅牢な倉庫が無数に並んで居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
それから、よくおまえさまをだいて、毎日毎日(まいにちまいにち)、すもうのけいこ場(ば)をのぞきにいったものですが、あれがそうです。
こんな古風な爺(じい)さんとはほとんど出会った事がないのだから、最初から多少場(ば)うての気味で辟易(へきえき)していたところへ、滔々(とうとう)と浴びせかけられたのだから
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は、おもての人たちが食べるように、大きなみそ汁鍋(なべ)と、お鉢(はち)とを、コック場(ば)から抱いて来て、柱に添うてつり下げた、テーブルの上へそれを載せた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
暫(しばら)くは誰(だれ)も物を言わない。日暮里(にっぽり)の停車場(ば)を過ぎた頃、始めて物を言い出したのは、黒(くろ)うとらしい女連(おんなづれ)であった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ほら、パン焼(や)き場(ば)から、台所で言っていることはなんでも聞こえるだろう」とバルブレンのおっかあが言った。
鉋屑(かんなくづ)が溜(たま)ればそれを目籠(めかご)に押し込んで外へ捨てに行つたり、職工達が墨を曳(ひ)いた大小の木材を鋸切(のこぎ)り場(ば)へ持つて行つて、挽(ひ)いて貰つたり、昼飯時が来ると
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
俺等は年中(ねんじゅう)場(ば)に出て商売にやっていながら容易に儲からない。それを相場表ぐらいを頼りにして、遠くから電話をかけて儲けようってのは己惚が強過ぎる。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まったく夢想(むそう)もしなかった出来事(できごと)に、おせんは、その場(ば)に腰(こし)を据(す)えたまま、直(す)ぐには二の句(く)が次(つ)げなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おつぎは次(つき)の朝(あさ)櫛(くし)を探(さが)しに出(で)た。同(おな)じ年輩(ねんぱい)の間(あひだ)には誰(たれ)の惡戯(いたづら)であるかが其(そ)の場(ば)で凡(すべ)ての耳(みゝ)に知(し)れ渡(わた)つて居(ゐ)た。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
海蔵(かいぞう)さんが人力曳(じんりきひ)きのたまり場(ば)へ来(く)ると、井戸掘(いどほ)りの新五郎(しんごろう)さんがいました。人力曳(じんりきひ)きのたまり場(ば)といっても、村(むら)の街道(かいどう)にそった駄菓子屋(だがしや)のことでありました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もしまた出来てしまった間柄である時には、その馴染であるとないとに拘(かかわ)らず、手を引いてこの水車小屋の一夜を、水入らずの稼(かせ)ぎ場(ば)として許すのであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
流(なが)し場(ば)から細君の声で兼吉はほうきをおいて走っていく。五郎はまぐさをいっせいに乳牛にふりまく。十七、八頭の乳牛は一時(じ)に騒然(そうぜん)として草をあらそいはむ。
箸 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そこには二三箇処(かしょ)にヤッチャ場(ば)があってそれぞれ人を集めていた。政雄の目についたのはシャツを売る店であった。シャツ売の商人は、大きな声で喚(わめ)いていた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
總身(そうみ)が寒(さむ)け立(だ)って、血管中(けっくわんぢゅう)に沁(し)み徹(とほ)る怖(おそ)ろしさに、命(いのち)の熱(ねつ)も凍結(こゞ)えさうな! 寧(いっ)そ皆(みな)を呼戻(よびもど)さうか? 乳母(うば)!……えゝ、乳母(うば)が何(なん)の役(やく)に立(た)つ? 怖(おそろ)しい此(この)一場(ば)は
その当時晴代は霊(たましひ)の脱殼(ぬけがら)のやうな体の遣(や)り場(ば)がなくて、責任を負はされてゐる両親や多勢の妹たちがなかつたら、きつとあの時死んでゐたらうと思はれる程だつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
停車場(ば)の時計、六時を五分過ぎ、下りの汽車を待つ客七、八人、声立てて語るものなければ寂寥(さびし)さはひとしおなり。ランプのおぼつかなき光、隈々(くまぐま)には届きかねつ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この貝塚(かひづか)は前(まへ)に申(まを)しましたように、元來(がんらい)海岸(かいがん)に棲(す)んだ人間(にんげん)の住居(じゆうきよ)の傍(そば)に出來(でき)た塵埃(じんあい)すて場(ば)であります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
六、それから又玉突き場(ば)に遊びゐたるに、一人(ひとり)の年少紳士(しんし)あり。僕等の仲間に入れてくれと言ふ。
病牀雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
本金貳百兩之場(ば)に、數十年の利息相掛り候得ば、過分の金高に及候義に御座候得共、右等之處宜敷御汲取(くみとり)被レ下、纔に貳百金丈、只利息之心持を以御肴料に差上候に付
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
といって二十日も一月も晴天が続くと川の水が減少して鮎の住(す)み場(ば)が狭(せま)くなりますのに硅藻が余(あま)り生長(せいちょう)し過(すぎ)て硬(こわ)くなりますから鮎はやっぱり餌に飢て味が悪くなります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さて奇(き)なる事は、河(かは)の広(ひろ)き場(ば)にてかれ鮞(こ)を産(うみ)おきたる所洪水(こうずゐ)などにて瀬(せ)かはりて河原(かはら)となりしが幾とせたちても産(うみ)たる子腐(くさら)ず、ふたゝび瀬となればその子生化(せいくわ)して鮏(さけ)となる。
そして、老人(ろうじん)の死(し)んだのを見(み)とどけてから、自分(じぶん)の盃(さかずき)のウィスキイをびんに戻(もど)し、かつ指紋(しもん)をぬぐいとつておいて、悠々(ゆうゆう)と……もしくはいそいで、この場(ば)を立去(たちさ)つたのである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
と言つて口を極めて罵(のゝし)つたものだ。忘れてゐたが上西氏は人並外れた口達者(くちたつしや)である。実業家としては遣(つか)ひ場(ば)のない口達者が自動車をこき下(おろ)す場合に初めて役に立つ事になつた。
この工合(ぐあい)のいい隠(かく)れ場(ば)に一羽(わ)の家鴨(あひる)がその時(とき)巣(す)について卵(たまご)がかえるのを守(まも)っていました。
鉄道の踏切(ふみきり)を通る時、番人が白い旗を出していたが、それを通ってしまうと、上り汽車がゴーと音を立てて過ぎて行った。かれは二三度路で中田への渡(わた)し場(ば)のありかをたずねた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
犬の大好(だいす)きな林太郎は、いままでなきそうにしていた顔をきゅうに明かるくいきいきとさして、その場(ば)にしゃがみながら片手(かたて)をさしだし、ちょっちょっと舌(した)をならしてよびました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
とんだ濡れ場(ば)じゃあ洒落(しゃれ)にもなりゃしない……ちょいと船頭さん、急いでおくれな
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ところが、やがて五六ヶ月経って秋の収穫期(とりいれどき)になると、後家さんの下ッ腹が約束の通りにムクムクとセリ出して来たのでドエライ評判になった。どこの稲扱(いねこ)き場(ば)でもこの噂で持ち切った。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一ト月と同じ職も無くて霜月(しもつき)より春へかけては突羽根(つくばね)の内職、夏は検査場(ば)の氷屋が手伝ひして、呼声をかしく客を引くに上手なれば、人には調法がられぬ、去年(こぞ)は仁和賀の台引きに出(いで)しより
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見るに一として商賣(しやうばい)の道に適(かなは)ず其上未(いま)だ出入場(ば)等(とう)の勝手も覺(おぼ)えず今忠八に暇(いとま)を出しては猶々(なほ/\)都合(つがふ)惡(わる)く手代(てだい)多(おほ)くの中にも忠八は發明にて萬事(ばんじ)心得居者(をるもの)なり又七は素(もと)よりお熊と中(なか)睦(むつま)しからす持參金(ぢさんきん)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私の方も、去年以来、場(ば)の方でサンザンなんだ。あっちこっちで、振出した手形の期限が次から次と追って来ている。これが落とせないとなると、なんしろ相手は銀行だから、イナヤは無い——。
好日 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
なれどもその頃はまだ小さく場(ば)取らず、胸に在ッても邪魔に成らぬ而已(のみ)か、そのムズムズと蠢動(うごめ)く時は世界中が一所(ひとところ)に集る如く、又この世から極楽浄土へ往生する如く、又春の日に瓊葩綉葉(けいはしゅうよう)の間
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)