先刻せんこく)” の例文
泣々なく/\ずっとって来ますと、先刻せんこくから此の様子を聞いていまして、気の毒になったか、娘のおいさが紙へ三円包んで持ってまいり
少年せうねんゆびさかたながめると如何いかにも大變たいへん! 先刻せんこく吾等われら通※つうくわして黄乳樹わうにうじゆはやしあひだより、一頭いつとう猛獸まうじういきほいするどあらはれてたのである。
「決して旦那の後を跟けたわけぢや御座いません。先刻せんこく旦那の前へ行つた、あの綺麗な新造が、何處へ行くかと思つて、ちよいと、その——」
それに、あゝ、なんとかの端本はほんか、と部屋頭へやがしらほんぞんじてりますから、なかうたこれから引出ひきだしましたのでは先刻せんこく承知しようちとやらでござりませう。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あたしを棄ててその刀を引出物ひきでものに弥生さまのところへ納まろうというんでございましょう? そんなこと、こちらは先刻せんこく御承知でございますよ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こうして、毎日まいにちおなじような谷川たにがわおといていなければなりません。先刻せんこくでしたか、こまどりさんのうたきましたが、いつも、よいこえですね。
美しく生まれたばかりに (新字新仮名) / 小川未明(著)
先刻せんこくそなたは三かわや、閻魔様えんまさまことかんがえていたらしいが、あれは仏者ぶっしゃ方便ほうべんである。うそでもないがまた事実じじつでもない。
ほのほまなこ忿怨神いかりのかみよ、案内者あんないじゃとなってくれい!……(チッバルトに對ひ)やい、チッバルト、先刻せんこく足下おぬしおれにくれた「惡漢あくたう」のいまかへす、受取うけとれ。
「おつぎはそんだが頭髮あたまてか/\ひからかせたとこつちやつたつけぞ」にはかおもしたやう先刻せんこく噺手はなしてがいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かへつとく吉兵衞は宿やどりし山家やまがの樣子何かに付てうたがはしき事のみなればまくらには就けどもやらず越方こしかた行末ゆくすゑのことを案じながらも先刻せんこく主人あるじの言葉に奧の一間を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なにしろ、そんな騒ぎのおりからでもあるし、大して気にするものもなかったが、先刻せんこくのひわという腰元だけは、これを聞くと、また血の気をなくして
先刻せんこく申しあげたように探偵小説家という立場から僕は申すので、或いは実際と大いに違っているかも知れません。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おやじは先刻せんこく御話をした通り、わしと終夜激論をしたくらいな間柄じゃが、せがれは五六歳のときに見たぎりで——実は貢五郎が早く死んだものだから
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先刻せんこくから、賛否さんぴいずれともいわなかった、年のころ二十五、六さい小柄こがらな紳士は、そのとき突然とつぜん立ちあがって
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「さて」と老人ろうじんはことばをついで、「先刻せんこくの話にもどりましょう。ではこの子に三十フラン出すことにしよう」
『ええ、先刻せんこく菊坂の理髪店とこやだつてのが伴れて来ましたの。(お定を向いて)このかたが旦那様だから御挨拶しな。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いや先刻せんこくかんがへがあるとは云つたが、別にかうとまつた事ではない。お前方二人は格別の間柄だから話して聞かせる。おれは今暫く世の成行なりゆきを見てゐようと思ふ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
城太郎は黙って例の木刀を横に差し、先刻せんこく作っておいた風呂敷づつみを斜めに背負い、ぽんと、いおりの外へ飛び出して、まごまごしているお通へ剣突くを食わせた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、診察の順番を待つ間——一時間近く——うかうかとその場景じょうけいに見入ってりました。先刻せんこくから、ことに私の眼をひいた一人の四十前後の男の患者がありました。
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どういうわけでこんなおもてなしにあずかるのか先刻せんこくからしきりに考えているのです。やはりどうもその先頃さきごろおたずねにあずかった紫紺しこんについてのようであります。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
が、先刻せんこくしん七におこののあとわせたすきに、二人ふたりとも、どこぞ近所きんじょへまぎれてったのであろう。もう一んで松江しょうこうみみには、容易ようい返事へんじもどってはなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「さようでございまする。かつはまた先刻せんこくも申した通り、一かどの御用も勤まる侍にむざと命をおとさせたのは、何よりもかみへ対し奉り、申しわけのないことと思って居りまする。」
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
加之しか眼眩まばゆきばかりに美しく着飾った貴婦人で、するすると窓のそば立寄たちよって、何か物を投出なげだすような手真似をしたが、窓は先刻せんこく私がたしかじたのだから、とても自然にく筈はない。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
余は「みゝずのたはこと」の校正を差措さしおいて、鶴子を連れて其席につらなり、日暮れて帰ると、提灯ちょうちんともして迎えに来た女中は、デカが先刻せんこく甲州街道で自動車にかれたことを告げた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そこでまたはげしいいくさがはじまりました。保名主従やすなしゅじゅういくつよくっても、先刻せんこくはたらきでずいぶんつかれている上に、百ばいもあるてきかこまれていることですから、とてもかないようがありません。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「けふは、○○の宮さんのとこへ招待されまして、つい、先刻せんこく出ましたが——」
通抜とほりぬけ無用の札を路次口ろじぐちつて置くのは、通抜とほりぬけらるゝ事を表示へうしするやうなものだと言つた人があるが僕も先刻せんこく余儀よぎなき用事で或抜裏あるぬけうら一足ひとあし這入はいるとすぐにめうなる二つの声を聞いた亭主ていしいわ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
蝋燭ろうそくをつけて参れ。随身に弓の絃打つるうちをして絶えず声を出して魔性に備えるように命じてくれ。こんな寂しい所で安心をして寝ていていいわけはない。先刻せんこく惟光これみつが来たと言っていたが、どうしたか」
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ついおそくなって何うも相済みません。先刻せんこくは失礼致しました」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
子供等は先刻せんこく昇天した
じつ先刻せんこく貴君等きくんら不思議ふしぎにも大輕氣球だいけいきゝゆうともこの印度洋インドやう波上はじやう落下らくかしたといたときから、わたくしこゝろある想像さうざうえがいてるのです。
娘「悪武士わるざむらいつかまってわたくしはもう殺される処を、通り掛りの旦那様に助けられて、そして其の方は先刻せんこくお休みなすったお方で」
不図ふと自分じぶんかえってると、おじいさんも、また守護霊しゅごれいさんも、先刻せんこく姿勢しせいのままで、ならんで神壇しんだんまえってられました。
中間ちうげん七助と云ふ者先刻せんこくより此樣子を見てこゝろ可笑をかしく走り出で主人をとゞ先々まづ/\御待下おんまちくださるべし只今彼方にて承まはりしが御立腹ごりつぷく御道理ごもつともなり然しながら女を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この分では今に酔払って前後ぜんごがわからなくなるのであろう。私は今のうちに、先刻せんこくの話を聞いて置こうと考えた。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このとき、トロッコが、ほかの石炭せきたんんでやまからくだってきました。つたのうえにとまっていたはちは、先刻せんこく石炭せきたんは、いまごろどこへいったろう……。
雪くる前の高原の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
左少将さしょうしょうさま。福島正則ふくしままさのりさまが、ちとご別室で御意ぎょい得たいと先刻せんこくからおまちかねでござります」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いか悪いかとんと分りません、いくら甘木さんにかかったって、あんなにジャムばかりめては胃病の直る訳がないと思います」と細君は先刻せんこくの不平をあんに迷亭にらす。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先刻せんこくより御覧に入れた、此なるつるぎ、と哥太寛の云つたのが、——卓子テエブルの上に置いた、蝋塗ろうぬり鮫鞘巻さめざやまき縁頭ふちがしら目貫めぬきそろつて、金銀造りの脇差わきざしなんです——此の日本のつるぎ一所いっしょ
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
道翹だうげう不審ふしんらしくりよかほた。「御存ごぞんじでございます。先刻せんこくあちらのくりやで、寒山かんざんまをすものとあたつてをりましたから、御用ごようがおありなさるなら、せませうか。」
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
自分が先刻せんこく晩餐を済ましてから、少許すこし調査物しらべものがあるからと云つて話好の伯母さんを避け、此十畳の奥座敷に立籠つて、余りあかからぬ五分心ごぶじんの洋燈の前に此筆を取上げたのは、実は
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
壁辰は、水でもみに台所へ行ったのだろう——と思っているところへ、先刻せんこく
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
塚田巡査は先刻せんこくから待侘まちわびていたらしい、暗い中から慌しく進み寄って、の無事を祝した。権次は畚から降り立って、合図の綱を強くくと、上ではおうと答えて、畚をするすると繰上くりあげた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鼻緒にしたる下駄げたの音荒々しく俊雄秋子が妻もこもれりわれも籠れる武蔵野へ一度にどっと示威運動の吶声ときのこえ座敷が座敷だけ秋子は先刻せんこく逃水「らいふ、おぶ、やまむらとしお」へ特筆大書すべき始末となりしに俊雄もいささか辟易へきえきしたるが弱きを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
じつ先刻せんこくきふおもつて、この兵曹へいそうとも遊獵いうれうたのが、天幸てんこうにも君等きみらをおたすまうことになつたのです。』とひながら、大空おほぞらあほて。
しかも敵影てきえいたくみにカムフラージュされて、我々はそのねらいどころが見付からないのです。で先刻せんこく申しあげたように、あなたの御尽力ごじんりょくを乞いたいわけです。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
以て天一坊へ申上られける樣は先刻せんこくより重役ども一同御身の上委細ゐさい承知仕りかくの如くたしかなる御證據ある上は何を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それは、みつばちが、先刻せんこくいった学者がくしゃたちの一こうであります。そのうちしろ洋服ようふくて、眼鏡めがねをかけた一人ひとりは、とこなつのはないているまえあゆりました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鹽「成程賊という者は様々のことを云うものだな、先刻せんこく荷物をさらってく様子が貧の盗みとは思えんわい」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しばらくするとおじいさんはわたくし先刻せんこく霊眼れいがん一人ひとり老人ろうじんれてふたたびそこへあらわれました。