黒衣くろご)” の例文
ひとりの男の目まぜに働く四、五人の黒衣くろご、それはまさしく、徳川万太郎を暗殺することのくじを引きあてた、雲霧くもきり仁三にざの一組です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実際、劇場側でもそう言っていた。つまりは、黒衣くろごをかぶって、何年か楽屋の飯を食わなければ、芝居というものは書けないように言い伝えられていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それから、あの舞臺には後見人がゐるかゐないか、——黒衣くろごを着る人間がゐるかゐないかそれを聽くんだ」
再び軽い拍子木ひやうしぎおと合図あひづに、黒衣くろごの男が右手のすみに立てた書割かきわりの一部を引取ひきとるとかみしもを着た浄瑠璃語じやうるりかたり三人、三味線弾しやみせんひき二人ふたりが、窮屈きうくつさうにせまい台の上にならんで
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そうしてから、復讐を兼ねて、いずれ追及してくる、一味の者を順ぐりに殺していったのだ。三伝は黒衣くろごで、君は立役者だ。サア、ここで、君に三伝の在所ありかを教えてもらおう。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
璃昇は数年後勢州蟹江村に於て農家へ侵入その家の女を姦したが、璃昇犯行当夜の装束が黒衣くろごであつたことが発覚の端緒となつて直ちに捕縛、小菅監獄へとおくられてしまつたのである。
異版 浅草灯籠 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
窓の下へ寄っていた三人の黒衣くろご、四ツ目屋の新助、お人よしの率八、雲霧の仁三にざを取り囲んで、追っ馳け追ン廻す物音の様子であります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それから、あの舞台には後見人がいるかいないか、——黒衣くろごを着る人間がいるかいないかそれを聴くんだ」
黒衣くろごをかぶり、拍子木を打ち、稽古をつけ、書抜きをかき、ここに幾年かの修業を積んだ上でなければ、いわゆる“舞台いたに乗る”劇は書けないものであると決められていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その頃、幾年となく、黒衣くろごの帯に金槌かなづちをさし、オペラ館の舞台に背景の飾附をしていた年の頃は五十前後の親方がいた。眼の細い、身丈せいの低くからぬ、丈夫そうな爺さんであった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして自ら先に、黒頭巾を脱ぎすて黒衣くろごを解いて振り落とすと、下は常着のおはぐろつむぎ鶯茶うぐいすちゃ博多はかたかなんぞと見られる平帯。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒衣くろごの男が右手の隅に立てた書割の一部を引取るとかみしもを着た浄瑠璃語じょうるりかたり三人、三味線弾しゃみせんひき二人が、窮屈そうに狭い台の上に並んでいて、ぐに弾出ひきだす三味線からつづいて太夫たゆうが声をあわしてかたり出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「その通りさ、俺はそれを知りたかつたんだよ。それから黒衣くろごは」
するどい眼をもって、覆面をして、黒衣くろごに身をつつんで、そして、二本の塗鞘ぬりざやを長やかに、うしろへ、ね上げて飛ぶ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その通りさ、俺はそれを知りたかったんだよ。それから黒衣くろごは」
あっと、思わず首をすくめたせつなに、黒衣くろごの武士が、足をあげて、鉄板のように重い花梨かりんの大卓を蹴たおしたので、東儀与力はその下に押しつぶされて
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「唖聾は、何者かにあやつられている手先とわしはる。張本人は、その折、先へ行った黒衣くろごの侍だった」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの自身番から一町半ほど先の路傍に、たれが脱ぎ捨てた物か、極めて薄布地うすぬのじを用いた黒衣くろごの小袖に、黒頭巾、黒の膝行袴たっつけなどが、ひとまとめにして、捨ててあった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ、生き残った召使のことばでは、五人組の五人がすべて一様の黒衣くろごを着こみ、もちろん覆面もし、刀の目貫めぬきを見覚えられないためか、大小の柄まで黒布で巻いていたという。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒衣くろご黒覆面の賊のひとりは、自身番の明りの下にひきすえてみると、何と、年頃三十二、三の、抜けるばかり色の白い、そして眼に張りをもった、見るからに凄艶な年増女であった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)