高館たかだち)” の例文
雨降りの中では草鞋わらじか靴ででもないと上下じょうげむずかしかろう——其処そこ通抜とおりぬけて、北上川きたかみがわ衣河ころもがわ、名にしおう、高館たかだちあとを望む
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三代の栄耀えいえう一睡のうちにして、大門だいもんの跡は一里こなたに有り、秀衡ひでひらが跡は田野に成りて、金鶏山のみ形を残す。先づ高館たかだちにのぼれば、北上川南部より流るる大河也。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人は北上川に沿うて北し、文治の故蹟を高館たかだちに訪うて判官義経を弔し、中尊寺に詣で、衣川ころもがはを隔てて琵琶の柵のあとを尋ね、一の関に至つてまさわづかくびすめぐらした。琵琶の柵は泉の城の別名である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かの芭蕉の「奥の細道」をたどって高館たかだちの旧跡や松島塩釜の名所を見物しながら奥州諸国を遍歴したい宿願で、三日前のゆうぐれに江戸を発足ほっそくして、路草を食いながらここまで来たのであると云った。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その高館たかだちあとをばしずかにめぐって、北上川の水は、はるばる、瀬もなく、音もなく、雲のはてさえ見えず、ただ(はるばる)と言うように流るるのである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
亀井かめい片岡かたおか鷲尾わしのお、四天王の松は、畑中はたなかあぜ四処よところに、雲をよろい、繇糸ゆるぎいとの風を浴びつつ、あるものは粛々しゅくしゅくとして衣河ころもがわに枝をそびやかし、あるものは恋々れんれんとして、高館たかだちこずえを伏せたのが
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)