駭然がいぜん)” の例文
彼はわざとらしい遠慮をよそおう男ではなかったから、なんらの技巧も加えず露骨にそのことを申し出た。クリストフは駭然がいぜんとした。
その暗闇くらやみの中にそのとき彼を見た者があったならば、駭然がいぜんとし呆然ぼうぜんとして打ちひしがれたような彼の様子が見られたであろう。
駭然がいぜんとして夢かうつつ狐子こしへんせらるるなからむやと思えども、なお勇気をふるいてすすむに、答えし男急にびとめて、いずかたへ行くやと云う。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
考えが不図此事に及び、自分は駭然がいぜんとした。如何程の必然がそのように、一見非常識に見えることの裡にあるか。
人か鬼か、実かまぼろしか、魏の勢は駭然がいぜんふるえあがり、敢えて撃とうとする者もない。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駭然がいぜんとして目を覚ます、そう謂ったあり様に、おかれてあったのではないか。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
足取も次第々々にゆるやかになって、ついには虫のう様になり、悄然しょんぼりこうべをうな垂れて二三町程も参ッた頃、不図ふと立止りて四辺あたり回顧みまわし、駭然がいぜんとして二足三足立戻ッて、トある横町へ曲り込んで
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
平次も何か駭然がいぜんとした心持です。
そして彼は駭然がいぜんとして考えた。「ああ、かくなり果てるよりもむしろ、あらゆる苦悶、あらゆる悲惨の方が!」
マリユスは駭然がいぜんとして彼を横の方に招いた。
これを見ていた両軍の兵は、駭然がいぜんとして
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
クリストフは駭然がいぜんとして、なぜであるか、どうしてこんなことが起こったのか、了解することができなかった。春になって河の氷解するのにも似ていた……。
駭然がいぜんとさけんだ。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一身のうちに瞬間に起こるそれらの死滅や更生は、その一身を愛する人々をして駭然がいぜんたらしむるものがある。
クリストフは駭然がいぜんとして家に帰った。その後毎日室に閉じこもった。仕事にかかることができなかった。
オリヴィエは駭然がいぜんとして、コレットと交わりを絶ち、自分の不謹慎を許してくれとクリストフに願った。
と突然、彼は駭然がいぜんとした。前方に、みちの曲り角のところに、二人の女が立って、こちらを眺めていた。
クリストフは駭然がいぜんとして立止った。ゴットフリートはとぼとぼ歩きつづけていた。クリストフは答え返しもせずに、そのあとについていった。彼は酔いもさめてしまった。
何事ぞ、この生あたたかい水が、この空粗な音楽が、自分の音楽であったのか?——彼は自分の作曲をひとわたり読み返してみた。そして駭然がいぜんとした。さらにに落ちなかった。
クリストフは駭然がいぜんとした。彼はミンナの誠実を疑ってみなかった。彼は自分自身をとがめた。軽卒な馬鹿げた手紙を書き送ったので、ミンナが怒るのはもっともだと考えた。
自己の本心の法則以外のあらゆる法則を脱したので、もう自由の身だと信じていた彼も、それらのフランス人に比べてはいかに自由の度が狭小だかを、駭然がいぜんとして感じたのである。
そして自分が最も愛していた楽匠中にも、うそをついてる者のあるのを認めて駭然がいぜんとした。初めはそれを疑おうとつとめ、自分の誤解だと思おうとつとめた。——だが、どうしても駄目だめだった。
ローザは駭然がいぜんとして、彼のかたわらに駆け寄った。彼の頭をかかえて泣いた。