馬蠅うまばえ)” の例文
傷口もかわいて居ったようでございます。おまけにそこには、馬蠅うまばえが一匹、わたしの足音も聞えないように、べったり食いついて居りましたっけ。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いちへ近づくと、馬蠅うまばえと人間がわんわんいっている。関東なまりの、あらゆる地方語でわめいているので、なんの意味やら分らない騒音になっている。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっと白姥しろうばの家に三晩みばん寝ました。その内も、娘は外へ出ては帰って来て、膝枕ひざまくらをさせて、始終たかって来る馬蠅うまばえを、払ってくれたのを、現にくるしみながら覚えています。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さらした古法帖こほうじょうの上に大きな馬蠅うまばえが飛んで来たので、老人は立って追いながら、「あやまちを改むるにはばかることなかれ。若い時の事はどうもいたし方がない。人間の善悪はむしろ晩節にあるのだよ。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
双方の死骸は、街路に横たわり、溝をのぞけば溝も腐臭ふしゅう。木陰にはいれば木陰にも腐臭。——そこに淋しき草の花は咲き、あぶがうなり、馬蠅うまばえが飛んでいた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
払えども払えどもたかって来る馬蠅うまばえのように、それはもう心の内から追いきれない彼の白日夢はくじつむとなっていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石曳きの小頭こがしらが、石のうえに上がって呶鳴った。監督の侍が、むちを持って陽除ひよけ小屋から出て来る。にわかに汗のにおいが大地にうごき、馬蠅うまばえまでわんわん立つ。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この伏見城の土木へ日稼ひかせぎに来る労働者の数だけでも、千人に近かった。その多くは、新曲輪しんぐるわの石垣工事にかかっているのである。伏見町はそのせいで、急に、売女ばいた馬蠅うまばえと物売りが
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに、武者修行は、汗の襟元へ食いついた馬蠅うまばえを手で払う拍子に
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)