飼犬かいいぬ)” の例文
けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬かいいぬくろなのです。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが飼犬かいいぬと一緒に散歩に出たのを、とっさんに腰がたたないほど、天秤棒で擲られたのだというのだ。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「さあ、そういうの人はりませんが、うちの飼犬かいいぬにはしっぺい太郎たろうというがついていますよ。」
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
飼犬かいいぬが主人の少年の病死の時その墓を離れず食物もとらずとうとう餓死がしした有名な例、鹿しかさるの子が殺されたときそれをしたって親もわざと殺されることなどたれでも知っています。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
流石さすがの目科も持余もてあまして見えたるが此時彼方なる寝台の下にていぬこわらしくうなるを聞く、是なんかねて聞きたる藻西太郎の飼犬かいいぬプラトとやら云えるにして今しも女主人が身をあやうしと見
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
君の親戚が当時余の僑居きょうきょと同じく原宿はらじゅくにあったので、君はよく親戚に来るついでに遊びに来た。親戚の家の飼犬かいいぬに噛まれて、用心の為数週間芝の血清けっせい注射ちゅうしゃに通うたなぞ云って居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さては、飼犬かいいぬに手を噛まれたのか。——持ち逃げの下手人はボロ易者えきしゃと道中師。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある犬通の話に、野犬やけんの牙は飼犬かいいぬのそれより長くて鋭く、且外方そっぽうくものだそうだ。生物せいぶつにはうえ程恐ろしいものは無い。食にはなれた野犬が猛犬になり狂犬になるのは唯一歩である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)