風呂屋ふろや)” の例文
黒子のある場所がほかとはちがって親兄弟でも知ろうはずがない。風呂屋ふろやの番頭とてそこまでは気がつくまい。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かごとりおなじこと風呂屋ふろやくも稽古けいこごとも一人ひとりあるきゆるされねば御目おめにかゝるをりもなくふみあげたけれど御住所おところたれひもならずこゝろにばかりないないりましたを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
また浮名立ててもその間夫の事思い切らぬ故に、年季の中にまた遠国の色里いろざとへ売りてやられ、あるいは廓より茶屋風呂屋ふろやの猿と変じてあかいて名を流す女郎あり
おなじく二日ふつかまちひて、初湯はつゆんである風俗ふうぞく以前いぜんありたり、いまもあるべし。たとへば、本町ほんちやう風呂屋ふろやぢや、いた、がわいた、とのぐあひなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私は骨つきの方の鰺をしゃぶりながら風呂屋ふろや煙突えんとつを見ていた。「どんなに叱られていたか」何と云う乱暴な聞き方であろう、私は背筋が熱くなるような思いをえて、与一の顔を見上げた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ちょうど、品川近くの風呂屋ふろやの前にかかったからである。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
間貸のばばは市ヶ谷見附みつけ内の何とやらいう薬湯やくとうがいいというので、君江はその日の暮方始めて教えられた風呂屋ふろやへ行き、翌日はとにかく少し無理をしても髪をおうと思いさだめた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)