なだ)” の例文
乗り合いは前後に俯仰ふぎょうし、左右になだれて、片時へんじも安き心はなく、今にもこの車顛覆くつがえるか、ただしはその身投げ落とさるるか。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いよいよ下降する石畳から、壊はされた黒いくさびの扉口からだ。ざんざんとなだれこむ躁擾からそれら卑少の歴史から、虜はれの血肉をみづから引き剥して、己は三歳の嬰児だ。
逸見猶吉詩集 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
故郷の家の傾斜の急な高い茅葺かやぶき屋根から、三尺餘も積んだ雪のかたまりがドーツと轟然ぐわうぜんとした地響を立ててなだれ落ちる物恐ろしい光景が、そして子供が下敷になつた怖ろしい幻影に取つちめられて
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
岩石の障壁がなだれをうって、肩下りに走っている、その峰は皆剣のように尖れる岩石である、麻の草鞋わらじが、ゴリゴリと、その切ッ先に触れて、一本一本麻の糸が引き截られるのが、眼に見るようで
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
比枝ひえ法師ほうしも、花賣はなうりも、まじりつゝなだれゆく
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
団々だんだんとして渦巻く煤烟ばいえんは、右舷うげんかすめて、おかかたなだれつつ、長く水面によこたわりて、遠く暮色ぼしょくまじわりつ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
比枝ひえの法師も、花賣も、打ち交りつつなだれゆく
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)