頸部けいぶ)” の例文
それは、春江の場合には頸部けいぶに、小さい万創膏が貼りつけられてあったのを覚えている係官が居たことから判って来たのである。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
伊曾の手で鋭いメスの一撃が劉子の頸部けいぶに加へられた。劉子の端麗な容貌ようぼうが音もなく彼の腕の中で失心して行つた。いで伊曾は自らの頸部を切り裂いた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
月の出ない前、碇泊中ていはくちゅうの独艦のサーチライトが蒼白い幅広の光芒こうぼうを闇空に旋回させて、美しかった。床に就いたが頸部けいぶのリウマチスが起って中々眠れない。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
蓉子に飛びかかりて馬乗りとなり両手をもって同人の頸部けいぶを絞めつけついに同人を窒息せしめた。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
そして、一人の——かの Scabies を患っている青年は、自分のてのひらを直角に頸部けいぶに当て、間もなく自分の首が切断せられることを示しながら、しかも哄然こうぜんと笑ってみせた。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
なぜって、旅人が、猿のきょうに乗って来たところを見すまし、木の枝でしきりと自分の頸部けいぶをなぐって見せたからです。猿はそれを真似て抜身ぬきみで自分のくびをなぐったから、たまりません。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
波田と藤原とは、かわるがわる汗だくになりながら坂をのぼり上って、もう少し上れば、半島の頸部けいぶから、大洋の見えるほど、市街の高い部分へ上って行った。そこに公立病院があった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
どうしたのかと仔細しさいに博士の身体を見れば、ネクタイが跳ねあがったようにソフトカラーから飛びだして頸部けいぶにいたいたしく喰い入っている。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女史のむっちりした丸くて白い頸部けいぶあたりに、ぎらぎら光る汗のようなものがにじんでいて、化粧料けしょうりょうから来るのか、それとも女史の体臭たいしゅうから来るのか
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここで玉屋総一郎の屍体の頸部けいぶに附いていた奇妙なる金具のギザギザこうの痕をなぜ思い出さなかったのだろう。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すこし詳しく云えば、和服姿の総一郎が、天井に取付けられた大きな電灯の金具のところから一本のつなによって、頸部けいぶを締められてブラ下っているのであった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ポントスはジュリアの独唱どくしょうを聞かせられながら、頸部けいぶから彼女に血を吸われたんです。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
屍体の咽喉部は、真紅な血糊ちのりでもって一面にむごたらしくいろどられていたが、そのとき頸部けいぶの左側に、突然パックリと一寸ばかりの傷口が開いた。それは何できずつけたものか、ひどく肉が裂けていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)