“韛(ふいご)” の例文
そしてマリユスの発する一語一語に、鉄工場の韛(ふいご)の息を炭火の上に吹きかけるようなさまが、その王党の老人の顔に現われた。
馬盥(ばだらい)だの韛(ふいご)だの稲扱(いねこ)きだのが置いてあったが、そのずっと奥の方に、裸体(はだか)蝋燭が燃えており、それを囲繞(かこ)んで、六人の男が丁半(しょうぶ)を争っていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
斯う三叉でくじって、先ず屋体に罅(ひび)を入らせる。一ふき韛(ふいご)で火をかける。——どうだ。美事な、自然らしい悪意には、我ながら感服の外はない。
対話 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そうしてそれが済むと、豚吉と一所に並べて火の中に突込んで、その上から残った炭を山のように積み上げて、ブウブウ韛(ふいご)を動かし初めました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作、三鳥山人(著)
真っ黒な小屋の中には、あら金のような、男たちが、韛(ふいご)をかけたり、炭を焚(た)いたり、鎚(つち)を振ったり、そして
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは小さな鍛冶屋(かじや)の工場で、韛(ふいご)の火がかんかんおこっている傍に、銀のような裏白な髪をした老婆がいた。それは鉄の焼けるのを待っているような容(ふう)であった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
寛文(くわんぶん)のむかし荘(さう)右エ門が(如法寺村)庭(には)にて韛(ふいご)をつかひたる時より燃(もえ)はじめしとぞ。前にいふ井中の火も医者(いしや)が挑灯(てうちん)を井の中へさげしゆゑその陽火にてもえいだしたるなるべし。
また煤けた顏で鳶色の紙帽を被つた怪物は韛(ふいご)に風を送つてゐるのだが、一寸その柄に凭りかかつて、喘息病みの器械に長い溜息をつかせ、自分は鍛冶場の黒い煙と硫黄のちらつく光の中から
駅伝馬車 (旧字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
しかし律動的な運動の合い間合い間には、種々の観念がつみ重なり、種々の幻像が浮かんでくる。身体の規則的な動作は、鉄工の韛(ふいご)のようにそれらを迸(ほとばし)り出させる。それが民衆の思想である。
鼻がまるで鍛冶屋の韛(ふいご)そつくりで、鼻の孔へは手桶に一ぱいづつ水を注ぎ込むことが出来るくらゐ! 唇と来たら、まつたくの話が、二本の丸太だ! 真赤な眼は仰むけに飛び出し、そのうへ
壊れた韛(ふいご)のような声を出したので、吃驚して逃げ出しました。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
韛(ふいご)もある チェントンもある ネヂ切り機械もある
山之口貘詩集 (旧字旧仮名) / 山之口貘(著)
それから鍛冶屋にありたけの炭を集めて、ドンドン炉の中にブチ込んで、一生懸命韛(ふいご)で火を吹き起しますと、その火の光りで家中が真赤になりました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作、三鳥山人(著)
その小さな狭い胸は、鍛冶屋(かじや)の韛(ふいご)のようにあえいでいた。その目は賤(いや)しい幸福の色に満ちていた。
寛文(くわんぶん)のむかし荘(さう)右エ門が(如法寺村)庭(には)にて韛(ふいご)をつかひたる時より燃(もえ)はじめしとぞ。前にいふ井中の火も医者(いしや)が挑灯(てうちん)を井の中へさげしゆゑその陽火にてもえいだしたるなるべし。
あたかも、韛(ふいご)の窓のように、灼熱(しゃくねつ)の光をおびて、唇(くち)は一文字にかたくむすばれて、太子の廟窟から求める声があるか、この身ここに朽ち死ぬか、不退の膝を、磐石(ばんじゃく)のようにくみなおした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるで鉄を熔(と)かしている炉の窓のようであり、それとともに唇(くち)は、下腹からしている呼吸を、極めて平調に通わせているかのように見せていても、実は韛(ふいご)のような熱臭(くさ)い火(か)ッ気(き)をもっていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)