鞣革なめしがわ)” の例文
まるで長靴に使う鞣革なめしがわそっくりになっているし、背後うしろには、普通なら二つに割ってある筈の裾が、四つに裂けてビロビロとさがり
「心臓が鞣革なめしがわで出来ているんだね。しかし僕が幹事を勤めているからには、もう只じゃ義太夫も謡曲もうならせない」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
脚は幾分円っこく、くるぶしもそうだが、美しい緑色の靴下をはいている。靴——桃色の鞣革なめしがわの——はキャベツの形にひだを取った黄色のリボンの房で結んである。
鐘塔の悪魔 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
弥平爺は、しばらくの沈黙の後、腹掛けのどんぶりを探りながら言った。そして、鞣革なめしがわの大きな財布を取り出した。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
例えば、皮革の価格では、自分自身の靴の皮革に対する租税のみならず、靴製造業者及び鞣革なめしがわ製造業者の靴に対するそれの一部分も、支払わなければならない。
鞣革なめしがわの帽子をかぶり、灰色の粗末なラシャのズボンと背広とをつけ、その背広には赤いリボンの古く黄色くなってるのが縫いつけてあり、木靴きぐつをはき、日に焼け
今年のは表紙が非常に軟かで、つよい鞣革なめしがわで玉虫色の象嵌ぞうがんがあります。装幀も年々に含蓄を加えます。
ソファー、アームチェア、ライチングデスク、それらの物は鞣革なめしがわと、紫檀とで出来て居りました。
こわすぎずやわらかすぎぬクッションのねばり工合、わざと染色を嫌って灰色の生地のまま張りつけた、鞣革なめしがわの肌触り、適度の傾斜を保って、そっと背中を支えて呉れる、豊満なもた
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
オースチンリードで出来合いをすこし直さしたモーニングの突立った肩が黄いろい金鎖草の花房にじた挨拶をしながら庭の門を入る。東洋風の鞣革なめしがわの皮膚、鞣革の手の皮膚。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とりわけ「金唐革きんからかわ」と呼ぶものが有名で、金泥きんでい色漆いろうるしを用い模様を高く浮き出させた鞣革なめしがわであります。草花や小鳥や獣などを美しくあしらいました。よく文箱ふばこや袋物などに見られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「兜が取り換えられているんだ」と法水は事務的な口調で、「向う側にあるのは全部吊具足つりぐそく(宙吊りにしたもの)だが、二番目の鞣革なめしがわ胴の安鎧に載っているのは、しころを見れば判るだろう。 ...
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
(寝台の傍の鞣革なめしがわの椅子に身をす。)
しかし彼をよく知っていて今その様子を注意して見た人があったら、その人は戦慄せんりつを覚えたであろう。その鞣革なめしがわのカラーの留め金は、首の後ろになくて、左の耳の所にきていた。
木や陶器や海泡石かいほうせき煙管パイプがお目どおりをした——すっかりいぶしのかかったのも、まだ燻しのかからないのも、鞣革なめしがわに包まれたのも、包まれないのもあり、つい最近に骨牌カルタでとった
染帷そめかたびら鞣革なめしがわの襷、伯耆安綱ほうきやすつなの大刀を帯び、天九郎てんくろう勝長の槍を執って、忠弥はひとしきり防いだが、不意を襲われたことではあり組織立った攻め手に叶うべくもなく、少時しばらくの後には縛に就いた。
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)