雪隠せついん)” の例文
旧字:雪隱
旅籠屋はたごやへ着いたら、第一にその土地の東西南北の方角をよく聞き定めて、家作りから雪隠せついん、裏表の口々を見覚えておくこと……」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
烏帽子は、階級のしるしだった。商も農も、諸職も、六位七位の布衣ほいたちも、日常、頭にっけている。雪隠せついんの中でも載せている。
もし人声がにぎやかであるか、座敷から見透みすかさるる恐れがあると思えば池を東へ廻って雪隠せついんの横から知らぬえんの下へ出る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
武士の大小をたばさみて雪隠せついんれる図の如きは、一九が『膝栗毛ひざくりげ』の滑稽とそのを一にするものならずや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
飲みとうて飲みとうてならぬところへ、ちょうど虎烈剌コレラ流行はやってなあ。獄卒がこれを消毒まよけのために雪隠せついんれと云うて酢をれたけに、それを我慢して飲んだものじゃ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
老人の「雪隠せついん哲学」に依ると、「湯殿や雪隠を真っ白にするのは西洋人の馬鹿な考だ、誰も見ていない場所だからと云って自分で自分の排泄はいせつ物が眼につくような設備をするのは無神経もはなはだしい、 ...
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
川へ落ちてガバ/\していると金側きんがわ時計を拾うような事があり、又間が悪いと途中で手水ちょうずが出たくなって、あゝ何所どこかに手水場があればいと思うと、幸い三疋立ちの雪隠せついんがあるから入ろうとすると
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
... 外の世帯道具しょたいどうぐも大原さんがお買いなすったものは滅多めったにありますまい」大原「滅多どころですか、一つもありません。僕が下宿屋からここへ引越して来た時何でも入要な品は残らず揃っていて雪隠せついんに紙まで入れてあったには ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
やがて、きゃッ、という悲鳴が、かわやの中で起った。雪隠せついん隙間すきまからモチ竿で、老女の隠しどころを、モチでさした者がある。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えんの下を伝わって雪隠せついんを西へ廻って築山つきやまの陰から往来へ出て、急ぎ足で屋根に草の生えているうちへ帰って来て何喰わぬ顔をして座敷の椽へ廻る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大中寺名代なだいの七不思議の一つ、「かずの雪隠せついん」の前へいって、その戸のさんへ手をかけて、それを引開けようとする様子ですから、お吉が、あなやと驚きました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど雪隠せついんなどに這入はいって雨の漏る壁を余念なく眺めていると、なかなかうまい模様画が自然に出来ているぜ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここにいう大中寺七不思議の一つ「かずの雪隠せついん」というのは、昔、佐竹の太郎が皆川山城守に攻められて、この寺へ逃げ込んで住職に救いを求めたが、住職が不在で留守の者が
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かずの雪隠せついん以後の、乱暴を働いたことも、いっさい告げ口がましいことをしないから、又六は仕事から帰って早々、ただ病気だと信じて、主膳を見舞に来たのみであることはまごうべくもない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)