離別わかれ)” の例文
まばゆく電燈のいた二等室の食堂に集って、皆から離別わかれを惜まれて見ると、遠い前途の思いが旅慣れない岸本の胸にふさがった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
俺の帰るのを待つて、話をして、明日あした行くと云ふのが順序だらう。四五日ぐらゐの離別わかれには顔を見ずに行つても、あの人は平気なのかしらん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お前は世間体というものを知ってるから、平生、吾が健全たっしゃな時でも、そんな事はおくびにも出さないほどだ。それが出来るくらいなら、もうとっくに離別わかれてしまったに違いない。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空寒き奥州おうしゅうにまで帰る事はわずに旅立たびだち玉う離別わかれには、これを出世の御発途おんかどいでと義理でさとして雄々おおしきことばを、口に云わする心が真情まことか、狭き女の胸に余りて案じすごせばうるの、涙が無理かと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僕もそのつもりで正作に離別わかれを告げた。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一日の出営を許されたるにぞ、渠は父母無き孤児みなしごの、他に繋累けいるいとてはあらざれども、として幼少より養育されて、母とも思う叔母に会して、永き離別わかれおしまんため、朝来ここにきたりおり
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)