おもて)” の例文
蒲田が思切りたる無法にこの長居はあやふしと見たれば、心に恨は含みながら、おもてにはかなはじと閉口して、重ねて難題のでざる先にとかくは引取らんと為るを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
洄の水の巻く力はすさまじいものだが、水の力には陰もあるおもてもある、吸込みもすれば湧上りもする。く水を知る者は水を制することをして水に制せらるることを為さぬ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつはりなきなりせばいかばかり人のことうれしからまじとは朗詠集らうえいしふ文詞ぶんしにもいでてよく人情にかなひたる歌なれども左右とかく人世の欲情は免かれがたくしていつはかざる事のなきにもあらずされば元祿の頃大坂おほさか天滿橋てんまばしの邊に與市と云者あり未だ若年にしておもてには侠客風俗をとこだてふう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さりとは彼のさとるべき由無けれど、何のかどもあらむに足近く訪はるるを心憂く思ふ余に、一度ならず満枝に向ひて言ひし事もありけれど、見舞といふをおもてにして訪ひ来るなれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)