間々あひだ/\)” の例文
平八郎父子が物を言ひ掛ければ、驚いたやうに返事をするが、其間々あひだ/\は焚火の前にうづくまつて、うつゝともゆめとも分からなくなつてゐる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
丁度祭日まつりびであつたその夕方に、綺麗によそほはれた街の幼い男女なんによは並木の間々あひだ/\で鬼ごつこや何やと幾団いくだんにもなつて遊んで居ました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その間々あひだ/\から射照らす舊暦八日の月は、宿とさし向つてる病院のペンキ塗りの高樓にその光りを鋭くぶちつけて、寒い風も透かして見える樣だ。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
連れて参りますが、間々あひだ/\では一月もお寺に参らずにゐる事がございますの。子供だけは遣りますが。
御米およねはたゞ結構けつこう御座ございますとか、御目出おめでたう御座ございますとか言葉ことばを、間々あひだ/\はさんでゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこらぢゆう夜具箪笥風呂敷包の投出されてゐる間々あひだ/\に、砂ほこりを浴びた男や女や子供が寄りあつまり、中には怪我人の介抱をしたり、または平気で物を食べてゐるものもある。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
列車が動き出すと共に直樣すぐさま自分は止せばよかつたと後悔した。丁度夕日の悲しく照す品川の入海と水田の間々あひだ/\に冬枯れした雜木の林をば、自分は遣瀬のない心持で眺め遣つた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
青年作家の文章が丁度西洋人の日本語を口真似する手品使ひの口上こうじやうのやうに思はれ、又日本文を読み得る或外国人には矢張り現代の青年作家が日本文の間々あひだ/\に挿入する外国語の意味が
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
鉄橋と渡船わたしぶねとの比較からこゝに思起おもひおこされるのは立派な表通おもてどほりの街路に対して其の間々あひだ/\に隠れてゐる路地の興味である。擬造西洋館の商店並び立つ表通は丁度ちやうど電車の往来する鉄橋のおもむきに等しい。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
空には朝も昼過ひるすぎも夕方ゆふがたも、いつでも雲が多くなつた。雲はかさなり合つて絶えず動いてゐるので、時としてはわづかに間々あひだ/\殊更ことさららしく色のい青空の残りを見せて置きながら、そら一面におほかぶさる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)