ひらめき)” の例文
少し間を置いて、「わたし又来てよ」と云うかと思うと、大きい目のひらめきを跡に残して、千代田草履は飛石の上をばたばたと踏んで去った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
新子が、そこに立ちわずらっているとき、電光のひらめきとほとんど同時に、硝子ガラス板を千枚も重ねて、大きい鉄槌で叩き潰したような音がした。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あんな高価な紙鳶を手に入れるどういふ目論見もくろみなのか解らなかつたが、その声の中には、きつと返して見せるといふりんとした意志のひらめきがあつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
願はくは汝さいはひの中にかく大いなる勞苦をふるをえんことを、汝の顏今ゑみひらめきを我に見せしは何故ぞや。 一一二—一一四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その笑いのうちには相手を翻弄ほんろうし得た瞬間の愉快を女性的にょしょうてきむさぼりつつある妙なひらめきがあった。自分は鋭く下女に向って、「何だい、突立つったったまま」と云った。下女はすぐ敷居際しきいぎわひざを突いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
喝采の聲と花束のひらめきぢやうに上りたるアヌンチヤタを迎へき。その我儘にて興ある振舞、何事にも頓着せずして面白げなる擧動を見て、人々は高等なるわざといへど、我はそを天賦のさがとおもひぬ。
生かそうとする熱情のひらめきは多くの場合に於て見られないと思いますね。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わが語りゐたる間、かの火の生くるふところのうちにとあるひらめき、俄にかつ屡〻ふるひ、そのさま電光いなづまの如くなりき 七九—八一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
日本の作家でも、西鶴さいかくなどの小説には、何時が来てもほろびない芸術的分子がありますよ。天才的なひらめきがありますよ。それに比べると、尾崎紅葉なんか、徹頭徹尾通俗小説ですよ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それでいて、稲妻いなずまのように簡潔なひらめきを自分の胸に投げ込んだ。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天才的なひらめきがありますよ。それに比べると、尾崎紅葉なんか、徹頭徹尾通俗小説ですよ。紅葉の考へ方とか物の観方と云ふものは、常識の範囲を、一歩も出てゐないのですからね。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)