長局ながつぼね)” の例文
曙色あけぼのいろに松竹梅を總縫した小袖、町風に髮を結ひ上げた風情は、長局ながつぼね風俗に飽々あき/\した家光の眼には、どんなに美しいものにうつつたでせう。
長局ながつぼねの女たちが取沙汰の種となったのはその影ではありますまいか。そうとすれば、妖鬼すなわち、徳川万太郎と相良金吾さがらきんごであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長局ながつぼねを専門にかせいだ鼠小僧といったような白徒しれものがあって——昨晩、この長局をおかしたとすれば、それは一枚や二枚の番附ではすむまい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五百は姉小路あねこうじという奥女中の部屋子へやこであったという。姉小路というからには、上臈じょうろうであっただろう。しからば長局ながつぼねの南一のかわに、五百はいたはずである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
長局ながつぼねを書生部屋にして、お足らぬ処は諸方諸屋敷の古長屋を安く買取かいとって寄宿舎を作りなどして、にわかに大きな学塾に為ると同時に入学生の数も次第に多く
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
二十の春、京へ上り、禁中に仕へ、長局ながつぼねが祐筆をして五年をおくつたが、また大阪へ歸つた。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
大藏が長局ながつぼねの塀の外を一人で窃かに廻ってまいりますと、沢山ではありませんが、ちら/\と雪が顔へ当り、なか/\寒うござります、雪も降止みそうで、風がフッと吹込む途端
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
曙色に松竹梅を総縫いした小袖、町風に髪を結い下げた風情は、長局ながつぼね風俗に飽き飽きした家光の眼には、どんなに美しいものに映ったでしょう。
一ぺんは、長局ながつぼねの部屋という部屋の障子へ一寸ぐらいずつの穴があけてあった、そこからいちいち覗いて見たもんだね。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんな噂の出所はいつも長局ながつぼねときまっていて、さすがに、表方では真顔にうける者もないが、大奥の夜ものがたりでは、もっぱらそれに尾ヒレを付けて、遂には
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから、広い廊下をいくまがり、五十三の部屋部屋、綾手の長局ながつぼね、それをぶじに通りぬけると、中庭にめんして、将軍家光の寝所があるのです。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
何一つといって紛失したものもありませんが、長局ながつぼねの方はいかがですか、何か変った事はございませんでしたか、念のためにひとつお調べ下されたい
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長局ながつぼねの一つの入口に、男持ちの扇が落ちていた。扇のつまから、月が大きく画いてある物だった。それを拾った女房たちは、おもしろがって、ほかのつぼねの女房たちの間を見せまわったあげく
その女の人は長い裲襠うちかけ裳裾もすそを引いて、さながら長局ながつぼねの廊下を歩むような足どりで、悠々寛々ゆうゆうかんかんと足を運んでいることは、尋常の沙汰とは思われません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
洗い髪かんかで、椎茸髱しいたけたぼ小母おばさん方をめ廻しながら、長局ながつぼねで、八文字を踏む人柄ですが、それが退屈と慢心で毎日の生活を持て余している大膳正を
この晩、二の丸御殿の長局ながつぼねで、奥女中たちがかしましい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)