キー)” の例文
平次が氣の付いたのは、斯う言つた極めて些細ささいなことでした。が、その些細なことがやがて娘の死因を解く大きなキーになつたのです。
事件に関係のありそうな「謎」は後から後へと山積さんせきしたものの、これを解くべき「キー」らしいものは一向に見当らないのだった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
手は一つのキーに触れた。そのおんは声のように震えた。アンナはぞっとして仕事を取り落とした。クリストフはもう腰をおろしてひいていた。
あたかもキーのなくなってる鍵盤けんばんの上では音が出ないように、彼女の言葉の一部は喉頭こうとうからくちびるへ来る途中で消えてしまった。
眼眦まぶちに滲むだ黄色の光りは——キーに奏でらるゝ夢幻曲の譜となつて、静かに、さうして快活に、蝶の如く悦びと悲しみとに充ちて踊つて居りました。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
これらの品がツバキの中に雑っていれども普通の人にはそれがツバキ系統のものか、トウツバキ系統のものか、チョット区別が付かないが、しかしそこにこれを見別けるキーがある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
小さな頭を振りたててキーを見つめ、鍵の上に両手をおどらしながら、牝鶏めんどりがくちばしで物を突っついてるような様子だった。
容易に想像され得ることで、此処で起った大雷鳴の真っ最中の犯罪が、どんな意味を持つかと言うことは、此事件の重大なキーの一つになるのです。
それは帝都暗黒界のキーを握る名探偵帆村荘六として完全に還元かんげんしていた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
容易に想像され得ることで、此處で起つた大雷鳴の眞最中の犯罪が、どんな意味を持つかと言ふことは、この事件の大きなキーの一つになるのです。
クリストフが彼女の小さな手の上に自分の手を置き添えて、指の位置を直しそれをキーの上に広げてやる時、彼女は気が遠くなるような心地がした。
しかし、それの出所でどころを確かめるキーは、どこにも見当らなかった。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女はまたピアノに手を置き、ふたたびやってみ、ふたたび経過句を間違え、キーをうちたたき、そして嘆息した。
音楽的知識を必然的なキーとした、一篇の傑作探偵小説も無いというのは、如何いかにも口惜しいことである。
探偵小説と音楽 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
低音のキーにとりとめもなく指を触れながら、音響のなごやかな光明で、生活の迷夢を包み込むのであった……。
象牙ぞうげキーに残る、幽香子の手摺れの跡もなつかしく、試みに二つ三つ叩いて見ると、キーの具合は未だ何んともなっては居りませんが、ペダルが少しどうかと思いますが
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
平次は大事なキーを見付けると、その微妙な感触を追って、ジワジワと追及しました。
初めのうちは、指が震えてキーを打つ力もなかった。それからしだいに元気が出て来た。モーツァルトの言葉を繰り返してるだけだと思いながら、知らず知らず自分の心を吐露していた。
近頃の人気作家エレリイ・クイーンには、ピアノの象牙のキーの間に小さく畳んだ密書を隠して、そのピアノを弾く者に発見させるように仕向けた、味の細かい詭計トリックを用いた小説がある。
探偵小説と音楽 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
彼女のほおは軽く汗ばんでいた。彼女の胸は沈黙のうちに騒ぎたっていた。彼女は蝋燭ろうそくの光を見つめて、燭台しょくだいの縁に流れた蝋を無意識にかき取っていた。彼は彼女をながめながらキーをたたいていた。
八五郎はそれが此事件の大きなキーのやうな氣がして居る樣子です。