鍵屋かぎや)” の例文
湖畔にこういう突風が起りつつあることを知るや知らずや、道庵先生は抜からぬかおで、大津の旅宿鍵屋かぎや店前みせさきへ立現われました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それから、半次といふ男は、良い男ですね。威勢がよくて、男つ振りがよくて、——鍵屋かぎやの手代の喜三郎も良い男だが——」
だんながたはご商売がらもうご存じでごぜえましょうが、日本橋の桧物町ひものちょう鍵屋かぎや長兵衛ちょうべえっていうろうそく問屋があるんですが、お聞き及びじゃござんせんか
それでもまたミケンジャクや烏万燈等と共に賞美され、私たちの子供の時分には、日本橋横山町二丁目の鍵屋かぎやという花火屋へせっせと買いに通ったものである。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
それと同時に、玉屋たまや鍵屋かぎやの声々がどっと起る。大河ぶちの桟敷さじきを一ぱいに埋めた見物客がその顔を空へ仰向あおむける。顔の輪廓がしばらくのあいだくっきりと照らし出される。
此地は芭蕉翁故郷塚、伊賀越の敵討で名の高い鍵屋かぎやの辻など心に留むるかたぞ多し、私はこゝに一夜二夜を明し、翁のことどもを忍びつゝ俳人ならぬ俗人の俗膓を洗ひ
伊賀、伊勢路 (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
日本の花火に、鮮麗な赤色光が一般に見られ出したのは、明治八年に洋行して大火傷おおやけどを負って帰朝した両国の鍵屋かぎや弥兵衛がもたらした研究の後である。——それまではなかった。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ならば御承知じゃ。右側の二軒目で、鍵屋かぎやと申したのが焼残っておりますが。」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの円筒形がその筒の軸と直角な軸の周囲に廻転しながら昇るという事と関係があるらしいとは思うが、本当の事は鍵屋かぎやの職人にでもよく聞いてみた上でなければ判断が出来ない訳である。
雑記(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鍵屋かぎやの黄金が急所々々にバラ撒かれた上、死んだ者に口が無く、五百兩の行方さへ、突き留める方法はありません。
これより程遠からぬところに鍵屋かぎやつじというのがある、鍵屋の辻へ行こう、音に聞く荒木又右衛門が武勇を現わしたところじゃ、そこで一番、火の出る斬合いをやって
あの、小女こおんなが来て、それから按摩のあらわれたのは、蔵屋くらやと言ふので……今宿つて居る……此方こなたは、鍵屋かぎやと云ふ……此のとうげ向合むかいあつた二軒旅籠の、峰を背後うしろにして、がけ樹立こだちかげまつたさみしい家で。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
伊賀の上野の鍵屋かぎやつじというのは、かの荒木又右衛門が手並てなみを現わした敵打かたきうちの名所。
「旗本や御家人のつぶの小さいのには、工面のよくねえのが多いから、こつそり繁昌はんじやうしてゐるのは、質屋と金貸しだ。大きいのは九丁目の鍵屋かぎや金右衞門から、小さいのは、唐辛子屋たうがらしやのケチ兵衞に至るまで」