酒店さかみせ)” の例文
常に此筋向うの酒屋へは能く行きますが目「好し、彼所あすこで問うたら分るだろう」と云い大足に向うの酒店さかみせせて入る
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
左に高くそばだちたるは、いはゆるロットマンが岡にて、「湖上第一勝」と題したる石碑せきひの建てる処なり。右に伶人れいじんレオニが開きぬといふ、水にのぞめる酒店さかみせあり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
池田は話し相手もなくなったので、暗い道をソロソロ歩きながら、下の方の仙太という酒店さかみせに行った。
恨なき殺人 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
我を誘ひ出して酒店さかみせに至り、初め白き基督涙號ラクリメエ、クリスチイを傾け、次いで赤き「カラブリア」號を倒し、わが最早え飮まずといなむにおよびて、さらば三鞭酒シヤンパニエもて熱をさませなどいひ、よろこびを盡して別れぬ。
なまめかしい、べにがら格子ごうしを五六軒見たあとは、細流せせらぎが流れて、薬師山を一方に、呉羽神社くれはじんじゃの大鳥居前を過ぎたあたりから、往来ゆきかう人も、来る人も、なくなって、古ぼけた酒店さかみせの杉葉のもとに、茶と黒と
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とある汚い酒店さかみせで流れの女を相手にして飲み酔っている一人の荒くれ男がいたが、丁度その時その店先を通りかかった呉羽之介をゆびさして傍の女が何やらささやくやいなや、矢庭やにわに血相変えて、店を飛出し
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
色あせし志村一座の幟などはためく頃を酒店さかみせに入る
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
竜池は家を継いでから酒店さかみせを閉じて、二三の諸侯の用達ようたしを専業とした。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人々は母上の目をねむらせ、その掌を合せたり。この掌の温きをば今まで我肩に覺えしものを。遺體をば、僧たち寺にき入れぬ。マリウチアは手に淺痍あさで負ひたる我を伴ひて、さきの酒店さかみせに歸りぬ。