這入はいっ)” の例文
れか這入はいって来る、電報がかかる、訪問客が来る、折角せっかく考えていたことを中途で妨げられて、またヤリ直すことが幾度いくどあるか知れぬ。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「全たく、服装なりだけじゃ分らない世の中になりましたからね。何処どこの紳士かと思うと、どうも変ちきりんなうち這入はいってますからね」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
... 其後では誰も老人の室へ這入はいった者が無いと云うから是ほど確な証拠は有るまい」目科は無言にて聞き終り意味有りげなる言葉にて
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ソコデ江戸に這入はいったとき、今思えば芝の田町たまち、処も覚えて居る、江戸に這入て往来の右側の家で、小僧がのこぎりやすりの目をたたいて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから少し下って右の斜面に這入はいって見たら、この辺は一面に草があって、その中にはアラシグサが沢山生えておった、なおそれから少し下ると雪が沢山に残っている
利尻山とその植物 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
岩壁を登ってその上流に下るとシラツキ沢が左から這入はいっている、只見川の本流は深緑色をなして緩く流れているが、シラツキ沢は岩石がことごとく真白になっていて、淡碧色の水が勢い強く落ちて来る
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
久四郎は最前の札を持って急いで這入はいって来た。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ただの宿屋には泊られないから、江戸に這入はいったらば堀留ほりどめ鈴木すずきと云う船宿に清水が先へいっまって居るから其処そこへ来いと云う約束がしてある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
... 内へ這入はいって見ますると、可哀相に、此有様です」と言来いいきたりて老女は真実あわれに堪えぬ如く声をすゝりて泣出せしかば目科は之を慰めて「いやお前がそうまで悲むは尤もだが、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
この養子に子供が二人あって、男の方は京都へ出て同志社へ這入はいった。其所を卒業してから、長らく亜米利加アメリカったそうだが、今では神戸で実業に従事して、相当の資産家になっている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一例をぐれば、一人ひとりの人が原書を読むそのそばで、その読む声がちゃんと耳に這入はいって、颯々さっさと写してスペルを誤ることがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
伯父は振り向きもせず、やはり傘を差したまま、旅宿やどの戸口まで来て、格子こうしを開けて中へ這入はいった。そうして格子をぴしゃりと締めて、うちから、長井直記は拙者だ。なに御用か。と聞いたそうである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)