追着おッつ)” の例文
鳥打帽とりうちぼうしなびた上へ手拭てぬぐいの頬かむりぐらいでは追着おッつかない、早や十月の声を聞いていたから、護身用の扇子せんすも持たぬ。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まさかに聞いたほどでもあるまいが、それが本当ならば見殺みごろしじゃ、どの道私は出家しゅっけの体、日がれるまでに宿へ着いて屋根の下に寝るにはおよばぬ、追着おッついて引戻してやろう。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汗で美しい襦袢じゅばんの汚れるのもいとわず、意とせず、些々ささたる内職をして苦労をし抜いて育てたが、六ツ七ツ八ツにもなれば、ぜんも別にして食べさせたいので、手内職では追着おッつかないから
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆっく歩行あるいても追着おッついて来ないから、内へ帰ったろうと思ったのに。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「きゃっ、ひいッ。」と逆に半身を折って、前へ折曲げて、脾腹ひばらを腕で圧えたが追着おッつかない。身を悶え、肩を揉み揉みへとへとになったらしい。……畦の端の草もみじに、だらしなく膝をついた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今はただ蚊が名物で、湯の谷といえば、まちの者は蚊だと思う。木屑きくずなどをいた位で追着おッつかぬと、売物の蚊遣香は買わさないで、杉葉すぎッぱいてくれる深切さ。縁側に両人ふたり並んだのを見て嬉しそうに
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先へ出た女中がまだそこを、うしろの人足ひとあしも聞きつけないで、ふらふらして歩行あるいているんだ。追着おッついてね、使つかいがこの使だ、手をくようにして力をつけて、とぼとぼりながら炬燵の事も聞いたよ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
直ぐに大跨おおまたに夫人の後について、やしろの廻廊を曲った所で追着おッついた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(坊ちゃん)……か何かで、直ぐに追着おッつく。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)