近比ちかごろ)” の例文
「ないことがあるものか、小さな家だよ、家のあることは事実だが、その家にいる者が問題だよ、姐さんは近比ちかごろここへ来たのだね」
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
後には近比ちかごろ故郷にてありしことなどを擧げて余が意見を問ひ、折に觸れては道中にて人々の失錯ありしことどもを告げて打笑ひ玉ひき。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
昨日之松風、近比ちかごろ見不申候面白能おもしろきのうにて候。松のむかふをまはりてとをられ候様子ともは、わさをきに持て仕候者の可成様子にてはなく候。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後には近比ちかごろ故郷にてありしことなどを挙げて余が意見を問ひ、折に触れては道中にて人々の失錯ありしことどもを告げて打笑ひ玉ひき。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その木像は近比ちかごろまた何人だれかに盗まれたので、その木像の戻って来るような和歌を詠んでくれと村の人が桂月翁に頼んでいた。
不動像の行方 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
近比ちかごろまで、私の家で茶店をやってましたが、お父さんとお母さんが、本郷のおやしきへお手伝いにあがるようになりましたから、めっちまいました」
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
近比ちかごろ日本の風俗書きしふみ一つ二つ買はせて読みしに、おん国にては親の結ぶ縁ありて、まことの愛知らぬ夫婦多しと、こなたの旅人のいやしむやうに記したるありしが
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
伊沢もその仲間入りをして近比ちかごろにないわかわかしい気もちになって笑っていたが、何時いつの間にか女をそっちのけにして昔の追懐へその話を持って往った。
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
八十之賀には御垢附御羽折おんあかつきおんはをり雑魚ざこ数品拝領、其外近比ちかごろ八丈島二反御肴とも被下置候。殊遇特恩身にあまり難有奉存候。桑楡さうゆ之景もはや可然御奉公も出来かね、只々恐入奉存候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「そんなことは無い、私は近比ちかごろ来た者だが、それでも鯉の二疋や三疋は、買手を待たして置いても獲って来る」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
先頃沼波ぬなみ武夫君は一幕物の中のサロメの誤訳を指摘してくれられた。近比ちかごろ伊庭孝君は同書の中の痴人と死との誤訳を指摘してくれられた。それ等も改版の折に訂正したく思っている。
不苦心談 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
尊も不思議に思っていたから神仙にうかごうた。神仙は尊のといに答えて、「近比ちかごろ人間界から来た新仙しんせんがあって、まだ音楽に熟していないのが混っているからである」
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此あたりに佳境ありてむかしより詩歌にも人口にもあらはれざりしを、近比ちかごろ江戸人見出して絶景なりとし、はるかに大田南畝などに詩をつくらしむ。それより土人もしりて詩を諸方に乞ふ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
喬生きょうせいじぶんの家の門口かどぐちへ立って、観燈のの模様を見ていた。鎮明嶺ちんめいれいの下に住んでいるこのわかい男は、近比ちかごろ愛していた女房に死なれたので気病きやまいのようになっているところであった。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
近比ちかごろは浪人の内職が本職になってね、文章を書いてめしうとは思わなかったよ、お互いに大臣になるか、警視総監になるか、捨売すてうりにしても、知事位にはなれると思ってたからね」
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
奴さんは近比ちかごろ細君の行動の怪しいことから、傍の寝台にいなかったこと、むし笑いに笑った女の声が、たしかに細君の声であったことを思いだして、世界が暗くなったのだ、しかし
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「好いかい、また、そんな者を追っかけてて、留置場の御厄介になろうと云うのじゃないか、昨夜ゆうべ千束町せんぞくちょうの方で、あの出っ歯の刑事にあったら、山西は近比ちかごろどうだって、君のことを聞いてたぜ」
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「お前さんは知らないかも判らない、私は近比ちかごろこの村へ来た者だから」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これは、私が近比ちかごろ知りあった医学士のはなしであります——
薬指の曲り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「真澄さん、あんたは、近比ちかごろ体でも悪くはないかね」
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「もとはあったが、近比ちかごろはめっきり無くなった」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)