たやす)” の例文
その恋のいよいよ急に、いよいよこまやかになりまされる時、人の最も憎める競争者の為に、しかもたやすく宮を奪はれし貫一が心は如何いかなりけん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ただかの絳雪を伴なふごとにたやすくはえも来ず。怨ずるに香玉、『わが情癡のさがには似もやらで、絳雪物に拘らはねば、こころ自からゆるやかなり。』
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
養老元年の紀に、この頃百姓法律に背いて、ほしいままにその情に任かせて髪をびんおろし、たやすく法服を着けて貌を桑門そうもんに似せ、情に奸盗を挟むともみえている。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
造作もない事だ、汝が頭痛したら官道に往って全く総身を伸ばしてしばらく居ればたやすく治ると告げた。
おもてにはあらはさず夫は氣の毒にもをしき事なりしかし夫には證據しようこでも有ての事か覺束おぼつかなし孫君の將軍の落胤らくいんでもたやすく出世は出來まじ過去すぎさりし事はあきらめ玉へとすかなだむればばゝは此言葉ことば
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
八汐路やしほぢたやすくわたるもろこしの海の城てふなくてやまめや (吉田松陰)
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
此等源十以下の人々は皆たやすく考ふることが出来ない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
熱灰ねつかいの下より一体のかばねなかば焦爛こげただれたるが見出みいだされぬ。目も当てられず、浅ましういぶせき限を尽したれど、あるじの妻とたやすく弁ぜらるべき面影おもかげ焚残やけのこれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は先づかく会釈して席に着きけるに、婦人は猶もおもてを示さざらんやうにかしらを下げて礼をせり。しかも彼はたやすくその下げたるかしらつかへたる手とを挙げざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)