軍鶏しやも)” の例文
旧字:軍鷄
物好きな傍聴人が、軍鶏しやも蹴合けあひを見るやうな気持で会場へぎつしりつまると、高木氏は例の尾崎氏の吹込蓄音機と一緒に演壇へぬつと出て来る。
僕等は回向院ゑかうゐんの表門を出、これもバラツクになつた坊主ばうず軍鶏しやもを見ながら、ひとの橋へ歩いて行つた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
戦つて見ると羽ふくよかなる地鶏は生命知らずの軍鶏しやもの敵では無かつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
なにとなく軍鶏しやもの啼く夜の月あかりいぶかしみつつ立てる女か
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と勝ち誇つた軍鶏しやものやうに一寸気取つてみせる。弾機ばねゆるんだ吹込蓄音機は黙りこくつて、ぐうともすうとも言はない。
そのほか鮨屋すしや与平よへい鰻屋うなぎや須崎屋すさきや、牛肉のほかにも冬になるとししや猿を食はせる豊田屋とよだや、それから回向院ゑかうゐんの表門に近い横町よこちやうにあつた「坊主ぼうず軍鶏しやも」——かう一々数へ立てて見ると
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この軍鶏しやもきほへる見れば頸毛くびげさへ逆羽さかばはららげり風に立つ軍鶏しやも
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「久世と云つたね、君は今。」と久世氏は軍鶏しやものやうに肩をそびやかした。「俺は市長だ、貴様達に久世呼ばはりをされる覚えはないよ。失敬な事云ふない。」
軍鶏しやもたちしづかよと見れ蹈むただち蹴爪くひ入る霜ばしらの土
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
見ると、直ぐそば卓子テーブルに、お洒落しやれな青年士官が三四人居合せて、軍鶏しやものやうに胸を反らして、軍鶏のやうなきいきいした声で何かしきりと軽躁はしやぎ散らしてゐた。
冬のつちに昂然として立つ軍鶏しやも鶏冠とさか火のごとし流るる頸羽根
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「天国には女が居ませんて——」娘は軍鶏しやもめすのやうにきつとなつて顔をあげた。「違ひますよ、先生、そんな理由わけで天国に結婚が無いんぢやございますまい。」
軍鶏しやもれども。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
船が桑港サンフランシスコへつくと、石川氏はくだんの洋服姿で軍鶏しやものやうにぐつと気取つてあがつて往つた。
軍鶏しやもれども
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)