蹴落けお)” の例文
熱の輻射ふくしゃも無線電信の電波も一つの連続系の部分になってしまって光という言葉の無意味なために今では輻射線という言葉に蹴落けおとされてしまったのである。
物理学と感覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「だまれ、青二さいなんじらごとき者の手にかかる呂宋兵衛ではない。うかと、わが身にちかよると、このいただきから蹴落けおとして、微塵みじんにしてくれるぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根占ねじめの花に蹴落けおされて色の無さよ、とあやしんで聞くと、芸も容色きりょう立優たちまさった朝顔だけれど、——名はお君という——そのは熊野をおどると、後できっとわずらうとの事。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どこからともなく不意に襲って来る不安は葉子を底知れぬ悒鬱ゆううつの沼に蹴落けおとした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
たなのうえせてあった、ふるいつぼや、またよごれたおもちゃなどは、あたらしくきたお人形にんぎょうに、蹴落けおとされたように、たなからりのぞかれてしまって、姿すがたうつくしいお人形にんぎょうだけが、ひとり
三つのお人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鼠の蹴落けおとした荒神松こうじんまつ泥竈へっついの肩に乗っている。器用には見えてやはり男の台所だった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)