蹴爪けづめ)” の例文
重役の顔にちらとあはれみの色が見えたが、すぐまた相手が蹴爪けづめでももつてゐはしないか、と気づかふやうな不安さうな顔つきに変つた。
蹴爪けづめを高く上げて、あたかも生きているあいだは武侠ぶきょうの精神のおかげでえておうとしなかった助命を切望しているように見えた。
雄鶏はねたましげに蹴爪けづめの上に伸び上がって、最後の決戦を試みようとする。その尾は、さながらマントのすそを剣ではね上げているようだ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
飼鶏は心あるごとくまばゆ洋燈ランプをとみこう見た。たてをも砕くべきその蹴爪けづめは、いたいたしげもなくお夏の襟にかかっている。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女はあっと驚いて立ちあがると、鶏は口嘴くちばしを働かせ、蹴爪けづめを働かせて、突くやら蹴るやら散々にさいなんだ。女は悲鳴をあげて逃げまわるのを、かれは執念ぶかく追いまわした。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
莎草くぐべにいまだするどし七面鳥もそろあゆみぬ蹴爪けづめをちぢめて
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はるもやゝとり蹴爪けづめ牡丹ぼたんの芽 磊石
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
たがひに蹴合ふ蹴爪けづめには
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
蹴爪けづめとぎとぎ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
婦人は寡婦鶏やもめどりのやうに、伸びかかつた蹴爪けづめでおとなしい上院議員を跳ね飛ばしかねないやうな素振を見せた。
雄鶏はねたましげに蹴爪けづめの上に伸び上って、最後の決戦を試みようとする。その尾は、剣がね上げるマントのひだそのままである。彼は、鶏冠とさかに血を注いで戦いを挑む。
ぐっと鶏の蹴爪けづめおさえたんですってね、場合が場合だもんだから、何ですか……台の車が五六尺、ひとりでにきりきりと動出すのに連れられて、世に生れて、瞳の輝く第一番に、羽搏はたたき打って
たがひに蹴合ふ蹴爪けづめには
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その棒には、おまけに、節くれや、苔や、古い雄鶏おんどりのように蹴爪けづめまでついていた。