踏襲とうしゅう)” の例文
はやい。時勢は急流のように早い。太閤たいこう秀吉の出世が、津々浦々の青年の血へ響いて来た時には、もう太閤秀吉の踏襲とうしゅうではいけないのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という調子でもううに梅が散っているにも頓着なく自分の過去の日程を時間さえその儘僕達に踏襲とうしゅうさせようとした。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
兄さんは神でもほとけでも何でも自分以外に権威のあるものを建立こんりゅうするのがきらいなのです。(この建立という言葉も兄さんの使ったままを、私が踏襲とうしゅうするのです)
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が井伊大老の開港政策を是認し踏襲とうしゅうしようとしているために、国賊とののしり、神州をけがす売国奴といきどおって、折あらばとひそかに狙っている攘夷じょうい派の志士達は勿論もちろんその第一の敵である。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
その口振りには日頃の母親の嘆息をそのまま踏襲とうしゅうしているようなふしが見えた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
鼎造は死んで、養子が崖邸の主人となり、極めて事業を切り縮めて踏襲とうしゅうした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
新聞小説でありつつもあたうかぎりな史実を踏襲とうしゅうしてゆきたいとおもっているし、これまでもその点はずいぶん稿外の時間と労をついやしてきた。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜならば、秀吉も、また、当然、いつかは信長の策を踏襲とうしゅうして、四国へ兵を渡すであろうことを、必然のこととして、予見していたからである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを「雪の解くる日まで」と、悠々ゆうゆう、以後の期間をむなしく過ごしていたところに、実に勝家の“常識”が常識どおり踏襲とうしゅうされて来たものといっていい。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光秀の叛逆はんぎゃくがまったくの暴挙で、長年にわたる計画のもとに行われたものでないことは、前夜の事情と、作戦の踏襲とうしゅうによってこれだけは明確に断言してよい。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
濠はそれに併行へいこうして、幅は二間をこえ、通例のもの以上築土も高い。いわゆる町の城廓のそれとなき様式をこの本山日蓮宗八ぽんの寺域もまた踏襲とうしゅうしていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この防呉作戦については、叡帝えいてい親征の事が決る前に、その廟議でも大いに議論のあった所であるが、結局、先帝以来、不敗の例となっている要路と作戦を踏襲とうしゅうすることになったものである。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「武田家の大行事だいぎょうじを徳川家に踏襲とうしゅうされるよりは、この秋かぎり根絶こんぜつさせろ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)