赫々あかあか)” の例文
身心ともにしびれて生けるしかばねのような肉体のからに、ただ、彼の意念の火が——生命の火だけが——赫々あかあか求法ぐほうに向って燃えているのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木橋の、埃りは終日、沈黙し、ポストは終日赫々あかあかと、風車を付けた乳母車うばぐるま、いつも街上にとまつてゐた。
けわしい磯に白波を立てて轟きわたっているのが見えも聞えもする寄波よせなみなど、そういう島の光景のためであったろうが、——とにかく、太陽は赫々あかあかと焼くがごとくに輝いていたし
夕日はまだ消えやらず芝生を赫々あかあかとはでに染めていた。そしてごい鷺もまたしきりにボコポンボコポンと啼いていた。何かしら小さな、しかし怖るべき運命を予告でもしているもののように。
高い、真黒な大屋根の上へ、なまりかす熱火ねっかが、赫々あかあかと反射していた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
翌朝、眼の覚めたときは、もう十時過ぎでしたろう。まくらもとの障子しょうじ一面に、赫々あかあかと陽がさしています。「ああ、気持よい」と手足をのばした途端とたんふすまごしに、舵手だしゅの清さんと、母の声がします。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そこが縁起じゃ、禁厭まじないとも言うのじゃよ、金烏玉兎きんうぎょくとと聞くは——この赫々あかあかとした日輪の中には三脚のからすむと言うげな、日中ひなかの道を照す、老人が、暗い心の補助おぎないに、烏瓜のともしびは天の与えと心得る。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今にもえなんとしていた火のいのち! よみがえったかの如く赫々あかあかと燃え上がってあたりは光明昼のごとく真っ赤に照った。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煉瓦干されて赫々あかあかしてゐた
「もすこしこうか」まきを加えると、炉はまた、赫々あかあかと炎をあげた。すすで黒くなった天井が赤くうつる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)