贔負びいき)” の例文
日本きちがいとも言いたいほど日本贔負びいきの婦人であった。その人が岸本を紹介してくれたのであった。老婦人は居間の方へ岸本を連れて行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お神さんはいつでも万平贔負びいきであった。芝居のお供といったらいつも万平で、万平のお蔭でお神さんは一廉ひとかどの芝居通になっていたのであった。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
エリスの良人は珍らしい日本人贔負びいきであった。凡そ日本の汽船でテームス川を溯ったほどの船員は、誰一人としてコックス家を知らぬものはなかった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
五稜廓ごりょうかくで奮戦した榎本武揚えのもとたけあき氏とも往来をして非常な徳川贔負びいきの人であって剣道も能く出来た豪傑、武士道と侠客肌きょうかくはだを一緒につき混ぜたような肌合いの人物で、この気性で
例になく言葉寡ことばずくなに上品にひかえ込むが、せんだってあの鼻の主が来た時の容子ようすを見たらいかに実業家贔負びいきの尊公でも辟易へきえきするにきまってるよ、ねえ苦沙弥君、君おおいに奮闘したじゃないか
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
じんすけもとより吾助ごすけ贔負びいきにて、此男このをとこのこと一も十も成就じやうじゆさせたく、よろこかほたさの一しんに、これまでのふみ幾通いくつう人目ひとめれぬやうとヾこほりとヾけ、令孃ひめこヽろらず返事へんじをとめしが
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私は、何故お信さんが親の意に従はうとしないかといふことよりも、何故伯父がお信さんの願望を容れて、森田と夫婦になることを許してやらないのかと、お信さん贔負びいきに思はずに居られなかつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「あれ、女であの方を褒めない者は御座ません。奥様、貴方あなたも桜井さん贔負びいきじゃ御座ませんか」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
せんだってじゅうから日本は露西亜ロシアと大戦争をしているそうだ。吾輩は日本の猫だから無論日本贔負びいきである。出来得べくんば混成こんせい猫旅団ねこりょだんを組織して露西亜兵を引っいてやりたいと思うくらいである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)