質素しっそ)” の例文
こんなくるしい道中どうちゅうのことでございますから、御服装おみなりなどもそれはそれは質素しっそなもので、あしには藁沓わらぐつには筒袖つつそで、さして男子だんし旅装束たびしょうぞく相違そういしていないのでした。
永い年月の衣料の不足は、質素しっそな岬の子どもらのうえにいっそうあわれにあらわれていて、若布わかめのようにさけたパンツをはき、そのすきまから皮膚ひふの見える男の子もいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
およそこの種の人は遁世とんせい出家しゅっけして死者の菩提ぼだいとむらうの例もあれども、今の世間の風潮にて出家しゅっけ落飾らくしょく不似合ふにあいとならば、ただその身を社会の暗処あんしょかくしてその生活を質素しっそにし
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そういう時世の中にあって、浅野家だけは、ひっそりと、質素しっそであった。名儒、山鹿素行やまがそこうの感化も大いにあったし、藩祖以来の素朴な士風が、まだ、元禄のえた時風に同調していない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人の生活は、出来るだけ質素しっそむねとした。孫火庭は、中国料理のコックと称して、方々の料理店を渡りあるいた。そのとき、漢少年を自分のおいだと称して、一緒につれあるいたのだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
六月の二十四日は、内匠頭長矩たくみのかみながのりの百ヵ日目に当る。早朝に、質素しっそな女駕籠と幾人かの供人が、忍びやかに参詣して行った。内匠頭夫人の、今は髪も切って変り果てた姿が、駕籠へ忍ぶ時ちらと見えた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)