賤民せんみん)” の例文
民衆とは平民のことであると信ずるのは、愚かの至りである。中流階級にも賤民せんみんの魂があると同じく、民衆にも貴族がある。
それは殿様に土下座する賤民せんみんのようにまで卑屈に見えたが、その芯にはもう決して動かされないねばっこさをさとらせた。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
彼らは皆小人どものみなり。陛下、陛下の精兵一人を作らんがためには彼ら二人を接合するを要すべし。首府の賤民せんみんにつきては少しも恐るるに足らず。
然るに、此の騒々しきどさくさ紛れを利用して、平日殺生禁断の池に釣垂れて、霊地を汚し、一時の快を貪りし賤民せんみんの多かりしは、嘆かはしきの至りなりし。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
爵位が無くても、天爵というものを持っている立派な貴族のひともあるし、おれたちのように爵位だけは持っていても、貴族どころか、賤民せんみんにちかいのもいる。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところがそれからも、私の不仕合せはいつから尽きようとはいたしませず、慈悲もあわれみもない親族どもは、私をカゴツ(中欧から北にかけて住む一種の賤民せんみん
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
賤民せんみんにも劣るような者がいましたし、貧しいうえに耐えがたいくらい悪い環境に育ち、仮名文字を読むことさえできないのに、人間としては頭のさがるほどりっぱな者に
「やいっ、開けろ、城門を開けおらんか。うぬ、憎ッくい賤民せんみんめ、どうするか見ておれ」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卑陋ひろう賤民せんみん扱いにされていた小説等の散文学が、最近十八世紀末葉以来、一時に急速な勢力を得て、今やかえって昔の貴族が、新しい平民の為に慴伏しょうふくされ、文壇の門外にたたき出された。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
葉子の目から見た親類という一群ひとむれはただ貪欲どんよく賤民せんみんとしか思えなかった。父はあわれむべく影の薄い一人ひとりの男性に過ぎなかった。母は——母はいちばん葉子の身近みぢかにいたといっていい。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ふと露西亜ロシア賤民せんみんの酒に酔って路傍に倒れて寝ているのを思い出した。そしてある友人と露西亜の人間はこれだからえらい、惑溺わくできするならあくまで惑溺せんければ駄目だと言ったことを思いだした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
目的があって歩くものは賤民せんみんだと、彼は平生から信じていたのであるけれども、この場合に限って、その賤民の方が偉い様な気がした。全たく、又アンニュイに襲われたと悟って、帰りだした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乱民らんみん賤民せんみんの都
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
不徳そうな顔つき、いかがわしい漫歩者、卑しい賤民せんみん白粉おしろいをぬりたてたいやな匂いの女、などがあまり多いのにクリストフは驚いた。彼はぞっとした。
賤民せんみんどもであり、群衆どもであり、平民どもである。そういう言葉は早急に発せられたものである。しかしまあおくとしよう、それが何のかかわりがあろう。
金の無い一賤民せんみんだけが正しい。私は武装蜂起ほうきに賛成した。ギロチンの無い革命は意味が無い。
苦悩の年鑑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「誇張どころか、もっとはっきり云えば、おれは鼻持ちのならない賤民せんみんだったよ」
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その雄壮な製作物を犬みたいな心を持った賤民せんみんどもから害されないようにすることこそ、人間の務めである。
絶望せる偉人ともいうべき賤民せんみんは抗議を持ち出すことがあり、下層民は民衆に戦いをいどむことがある。
「一言もない。おれは、もともと賤民せんみんさ。たかだか一個の肉体を、肉体だけを、」言いかけてふっと口をつぐみ、それからぐっと上半身を乗り出させて、「あなたは、あの女を、どう思いますか?」
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
普通選挙の恩恵に浴しながらも、古い賤民せんみん的な素質を脱しきらないでいる、中世都市の遺物かと思われた。
ルイ十八世は爪先つまさきでホラチウスの書に線を引いて読みながら、自ら皇帝となる英雄や自ら皇帝の後継となる賤民せんみんなどのことを考えつつ、二つの心配を持っていた
立派に、悪業の子として死にたいと努めた。けれども、一夜、気が附いてみると、私は金持の子供どころか、着て出る着物さえ無い賤民せんみんであった。故郷からの仕送りの金も、ことし一年で切れる筈だ。
賤民せんみんの娯楽より高尚でもなければまた単に活発でもない娯楽さえ、少しも見出すことができないで、毎年なんらの喜びもなくぼんやり飲み込まれるそれらの環境の、低級な精神のものばかりである。
憤怒をもって人間をながめている法律によって賤民せんみんに落とされ、厳酷に天をながめている文明によってのろわれたるその囚人は、引きしまった顔をして沈鬱ちんうつに黙然と考えにふけっているのであった。
そして賤民せんみんはイエス・キリストのあとに従っていた。