貞徳ていとく)” の例文
或時長頭丸即ち貞徳ていとくが公をうた時、公は閑栖かんせい韵事いんじであるが、やわらかな日のさす庭に出て、唐松からまつ実生みばえ釣瓶つるべに手ずから植えていた。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その宗祇時代から芭蕉に至るまでの間には宗鑑そうかん守武もりたけ貞徳ていとく宗因そういん等の時代を経ているのである。また芭蕉以後蕪村ぶそん一茶いっさ、子規を経て今日に至る。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
集とは其風体ふうたいの句々をえらび、我風体と云ふことを知らするまで也。我俳諧撰集の心なし。しかしながら貞徳ていとく以来其人々の風体ありて、宗因そういんまで俳諧をとなへ来れり。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
貞徳ていとくの門流は京都を本山とし、古式の風雅を尊重して止まなかった故に、いわゆる賤山しずやまがつの生活の風景までは映写していないが、それでもまだ事物の名目形態
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
猿楽さるがく狂言からも、また貞徳ていとくの「独吟百韻」からも、富士もうでの群衆のざわめきは、手に取るように聞えるが、それらの参詣者は、皆この村山口を取ったものであるらしい。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
その師貞徳ていとくの句にも見え近くは『仮名字例』(延宝四年印本)に「おいかけ、緌、冠具。俗ナベトリというとあり、今は老懸を知らざる者なく、厨の鍋受は見ざる人多かるべし」
さればこそ誹諧はくりもとを迷い出て談林の林をさまよい帰するところを知らなかった。芭蕉も貞徳ていとくよだれをなむるにあきたらず一度はこの林に分け入ってこのなぞの正体を捜して歩いた。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
第一は貞徳ていとく時代でありますが、これは貞徳が已に京にいた位であるし、ことにこの頃はまだ江戸草創の際で、東武ではなかなか文学などいう優長な事をやって居る余地がなかったのですから
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
等の例を掲げたり、生白庵行風せいはくあんゆきかぜが『古今夷曲集ここんいきょくしゅう』を見れば宗鑑そうかん貞徳ていとくら古俳人として名ありしものの狂歌を載せて作例となせるもの多し。いづれも両者はなはだ相近きを知らしむるものならざらんや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一、俳句に貞徳ていとく風あり、檀林だんりん風あり、芭蕉ばしょう風あり、其角きかく風あり、美濃みの風あり、伊丹いたみ風あり、蕪村ぶそん風あり、暁台きょうたい風あり、一茶いっさ風あり、乙二おつに風あり、蒼虬そうきゅう風あり、しかれどもこれ歴史上の結果なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)