行縢むかばき)” の例文
それに花やかな弓小手ゆごて、太刀を佩き短刀を差して頭に綾藺笠あやいがさ、腰には夏毛の行縢むかばき、背には逆顔さかづらえびら、手には覚えの弓、太くたくましい馬をかせて
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
越中守として踏み歩いた越路の泥のかたが、まだ行縢むかばきから落ちきらぬ内に、もうまた、都を離れなければならぬ時の、迫って居るような気がして居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
予算一万貫、工人二万、京都の富豪たちにも、賦課ふかを申しつけた。——そして彼は虎の毛皮の行縢むかばき穿うがち、時には、手に白刃はくじんをさげて、外門の工を見廻った。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兎に角、談柄だんぺいはそれからそれへと移つて、酒もさかな残少のこりずくなになつた時分には、なにがしと云ふ侍学生がくしやうが、行縢むかばきの片皮へ、両足を入れて馬に乗らうとした話が、一座の興味を集めてゐた。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一個ひとりの壮年入り来たり炉の傍の敷居に腰かけぬ、彼は洗濯衣を着装きかざり、すそを端折り行縢むかばきを着け草鞋わらじをはきたり、彼は今両手に取れる菅笠すげがさひざの上にあげつつ、いと決然たる調子にて
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
越中守として踏み歩いた越路こしぢの泥のかたが、まだ行縢むかばきから落ちきらぬ内に、彼にはもうまた、都を離れなければならぬ時の迫つて居るやうな気がしてならない。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
兵馬は流鏑馬の時の綾藺笠あやいがさ行縢むかばきで、同じ黒いたくましい馬に乗って、介添かいぞえ的持まともちをひきつれて仮屋へ帰って、直ちに衣服を改めて編笠で面を隠して、大泉寺小路というのを、ひそかに廻って
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御腰蓑おんこしみのには白熊、鞭をおびられ、白革しろかはのお弓懸ゆがけには、桐のとうの御紋あり、猩々皮しやうじやうがは御沓おんくつに、お行縢むかばきは金に虎のまだらを縫ひ、御鞍重おんくらかさね、泥障あふり、御手綱、腹巻、馬の尾袋をぶくろまでくれなゐつな、紅の房
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)