-
トップ
>
-
藤紫
>
-
ふじむらさき
中に
咲いたやうな……
藤紫に、
浅黄と
群青で、
小菊、
撫子を
優しく
染めた
友染の
袋を
解いて、
銀の
鍋を、
園はきら/\と
取つて
出た。
袖は涙に
濡れて、白茶地に
牛房縞の
裏柳葉色を曇らせている。島田
髷はまったく根が抜け、
藤紫のなまこの半掛けは
脱れて、枕は
不用もののように突き出されていた。
ここなる二ひらの
帆立貝のひとつは
藤紫に白をぼかし、放射状にたてた幾十の帆柱は無数の
綺麗な
鱗茸をつらねて、今しも
迸りいでた
曙の光がいろいろの雲の層に
遮られたようにみえる。
薄紅の
撫子と、
藤紫の
小菊が
微に
彩めく、
其の
友染を
密と
辿ると、
掻上げた
黒髪の
毛筋を
透いて、ちらりと
耳朶と、
而して
白々とある
頸脚が、すつと
寝て、
其の
薄化粧した、きめの
細かなのさへ