薬種やくしゅ)” の例文
旧字:藥種
本町辺は薬種やくしゅ問屋の多いところなので、あたしは安座あぐらをかいて、薬草くすりぐさを刻んでいるのを見て知っていたからよくわかった。
唐土もろこしから種々いろ/\薬種やくしゅが渡来いたしてるが、その薬種を医者が病気の模様にってあるいゆるめ、或は煮詰めて呑ませるというのも、畢竟ひっきょう多くの病人を助ける為で、結句けっく御国みくにの為じゃの
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
恐らく我国の薬種やくしゅで無からう、天竺てんじく伝来か、蘭方らんぽうか、近くは朝鮮、琉球りゅうきゅうあたりの妙薬に相違ない。へば房々ふさふさとある髪は、なんと、物語にこそ謂へ目前まのあたりいたらすそなびくであらう。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
よくよく御難ごなんな年だ、十津川騒動さえ始まらなければ、こんなことはないのだが、湯の客は少ないし、薬種やくしゅを買いに来る商人も見えず、その上に、今日も明日もきびしい落人詮議おちうどせんぎで追い廻される
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それに星尾の父親というのが神戸に居ますが、これは香料問屋こうりょうどんやをやって、熱帯地方からいろいろな香水の原料を買いあつめてはさばいているのです。阿弗利加アフリカ薬種やくしゅを仕入れる便利が充分あります。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
両国でも本家の四ツ目屋のあった加賀屋横町や虎横町——薬種やくしゅ屋の虎屋の横町の俗称——今の有名な泥鰌どじょう屋の横町辺が中心です。西両国、今の公園地の前の大川縁おおかわべりに、水茶屋が七軒ばかりもあった。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
そこには薬種やくしゅを刻むもの、袋を造るもの、丸薬の数を量り入れるもの、それぞれの受け持ちがあり、中には薬の紙を折ることを内職にして古い士族屋敷の町のほうからかよってくる老人もありまして
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ウム、では、薬種やくしゅはこれで残らず揃うたの」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)