薄霞うすがすみ)” の例文
にしきの帯を解いた様な、なまめかしい草の上、雨のあとの薄霞うすがすみ、山のすそ靉靆たなびうち一張いっちょうむらさき大きさ月輪げつりんの如く、はたすみれの花束に似たるあり。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渋紙をほぐすと、中から出たのは、刃渡り八寸ほどの、薄刃ながら凄い業物わざもの。窓の明りに透かすと薄霞うすがすみいたような脂が焼刃の上を曇らせております。
めぐりはまとふ薄霞うすがすみ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
着つけは桃に薄霞うすがすみ朱鷺色絹ときいろぎぬに白い裏、はだえの雪のくれないかさねに透くようなまめかしく、白のしゃの、その狩衣を装い澄まして、黒繻子くろじゅすの帯、箱文庫。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菜種なたねにまじる茅家かややのあなたに、白波と、松吹風まつふくかぜ右左みぎひだり、其処そこに旗のような薄霞うすがすみに、しっとりとくれないさまに桃の花をいろどった、そのむねより、高いのは一つもない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時しも一面の薄霞うすがすみに、処々つやあるよう、月の影に、雨戸はしんつらなって、朝顔の葉を吹く風に、さっと乱れて、鼻紙がちらちらと、蓮歩れんぽのあとのここかしこ、夫人をしとうて散々ちりぢりなり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)