とむらい)” の例文
もっとも稀には死人がおとむらいの最中によみがえって大騒ぎをすることもないではないが、それはきわめて珍らしいことで、もしそんなことがあれば
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
踊る足音が次第に彼方に去って夜が重なった。彼は陳子文のとむらいの駒の音と、夜の外気に鳴る風琴の不気味をしとねのなかで聞いた。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
たとえ死んでも、適当な時間に見つけ出されて、とむらいをしてもらいたい心がある。それには疏水は絶好な場所である。
身投げ救助業 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
手に一条ひとすじ大身おおみやりひっさげて、背負しょった女房が死骸でなくば、死人の山をきずくはず、無理に手活ていけの花にした、申訳もうしわけとむらいに、医王山の美女ヶ原、花の中にうずめて帰る。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とむらいを出す前に、神戸方で三右衛門が遭難当時に持っていた物の始末をした時、大小も当然伜宇平が持って帰る筈であったが、娘りよは切に請うて脇差を譲り受けた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一日置いて淋しいおとむらいを出してね、奉公人はそれぞれ暇を取って帰ったのですが、あたし内野さんと変になっちゃってね、下村さんを警察へやっちゃったと思うと
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「極く安直あんちょくなおとむらいでしょうな」と、同じ男が云った。「何しろ会葬者があると云うことは全然まるで聞かないからね。どうです、我々で一団体つくって義勇兵になっては?」
どちらがどうだかよく分らなかったが、とにかく不慮の出来事のこととてこちらから訊ねに行くわけにもいかずそのままでいると、その翌日になって高次郎氏の家からとむらいが出た。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
とむらいの方なら、少しは盛大にしたって好いのです。死人をねたむものはありませんから。
「憎きは玉置、今は許されぬ、片岡八郎のとむらい合戦、逆撃むかえうてや!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
青い絨氈じゅうたんの上を鏡のない人間が歪んだシルクハット、胸は悲しいとむらいだ。心行くまで私はお前を熱愛したのだ。けれど感覚の最期がいたましい。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
Fなる魔法使い 悲しみ嘆くとむらいの歌!
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)