菎蒻こんにゃく)” の例文
「何だねえ、確乎しっかりして御行おいでよ」と私は叱るように言いまして、菎蒻こんにゃくを提げさせて外へ送出す時に、「まあ、ひどい雪だ——気をけて御行よ」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どうかその、疼くだけでも早く医者の力で直らないものかねえ! あまり痛むなら、菎蒻こんにゃくでもでて上げようか?」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
成程、舞台わきの常茶店では、昼間はたしか、うで玉子なぞも売るようです。お定りの菎蒻こんにゃくに、がんもどき、焼豆府と、竹輪などは、玉子より精進の部に入ります。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お前のは何だっけ。はす菎蒻こんにゃくに。今日はもうおこうこはえんだよ。」とどんぶりを一つ取出して渡した。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大地などといっても、あんがいたよりないもので、菎蒻こんにゃくみたいなところがたぶんにある。事実、スカンジナヴィア地方では、近代になって、氷河がどんどん後退している。
白い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
赤の飯、刻鰑きざみするめ菎蒻こんにゃく里芋蓮根の煮染にしめ、豆腐に芋の汁、はずんだ家では菰冠こもかぶりを一樽とって、主も客も芽出度めでたいと云って飲み、万歳と云っては食い、満腹満足、真赤まっかになって祝うのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは菎蒻こんにゃく玉が振動して、その割目から湯気を吹き出すような笑い方だった。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
とぼけ顔に言よどんで、見れば手に提げた菎蒻こんにゃくを庭のすみへ置きながら蹣跚よろよろと其処へ倒れそうになりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小鍋立こなべだてというと洒落に見えるが、何、無精たらしい雇婆やといばあさんの突掛つッかけの膳で、安ものの中皿に、ねぎ菎蒻こんにゃくばかりが、うずたかく、狩野派末法の山水を見せると、かたわらに竹の皮の突張つッぱった
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私達は炬燵の周囲まわりに集った。隠居は古い炬燵板を取出して、それを蒲団ふとんの上に載せ、大丼おおどんぶり菎蒻こんにゃくと油揚の煮付を盛って出した。小皿には唐辛とうがらしの袋をも添えて出した。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「味噌は、あやまる。からしにしてくれ、菎蒻こんにゃくだ。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、今日は朝から身体からだ菎蒻こんにゃくのように成っちゃった。牛蒡ごぼうのようにピンとして歩けん——」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
菎蒻こんにゃく。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菎蒻こんにゃくと油揚の馳走ちそうに成って、間もなく私はこの隠居の家を辞した。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)