莢豌豆さやえんどう)” の例文
その時、勝重の母親が昼食のぜんをそこへ運んで来た。莢豌豆さやえんどうふき里芋さといもなぞの田舎風いなかふうな手料理が旧家のものらしいうつわに盛られて、半蔵らの前に並んだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
秋の大根、初夏の莢豌豆さやえんどう、盛夏の胡瓜きゅうり、寒中の冬菜。そのどれにもこれにも、幼いときからの味の記念がよみがえるのである。故郷の山川草木ほど、なつかしきものはない。
利根川の鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
胡瓜きゅうり莢豌豆さやえんどうの類も早作りをして寒の中に出します。此奴も銀の利くもので……」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ちょっと見ると、普通の農家とはあまり違っていない。蠶豆そらまめ莢豌豆さやえんどうの畑がまわりを取り巻いていて、夏は茄子なすび胡瓜きゅうりがそこら一面にできる。玉蜀黍とうもろこし広葉ひろばもガサガサと風になびく。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
右の外、莢豌豆さやえんどう、トマト、ねぎ、隠元豆、たけのこ、鶏卵、竹木、わら——等の若干がある。
それは今の季節の京都に必ずなくてはならぬひがいの焼いたの、ふなの子なます明石鯛あかしだいのう塩、それから高野こうや豆腐の白醤油煮しろしょうゆにに、柔かい卵色湯葉と真青な莢豌豆さやえんどうの煮しめというような物であった。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
莢豌豆さやえんどう煮物にもの 夏 第百四十 玉子料理
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
こんな風にして、三吉夫婦の若い生涯はまじり始めた。やがて裏の畠に播いた莢豌豆さやえんどう貝割葉かいわればを持上げ、馬鈴薯も芽を出す頃は、いくらかずつ新しい家の形を成して行った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところが、ある朝、家の東方にある畑へ莢豌豆さやえんどうの実を採りに行って、蔓から豆をもぎとっていると、その葉に一分五厘から二分くらいの青虫が這っているのを偶然にも発見したではないか。
莢豌豆の虫 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
お雪は入口の庭から裏の方へ廻って、生い茂った桑畠の間を通って、莢豌豆さやえんどうの花の垂れたところへ出た。高い枯枝にまとい着いたつるからは、青々とした莢が最早もう沢山に下っていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土地で「雪割ゆきわれ」ととなえるは、莢豌豆さやえんどうのことで、その実の入った豆を豚のあぶらでいためて、それにお雪は塩を添えたものを別に夫の皿へつけた。彼女は夫の喜ぶ顔を見たいと思った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)