花押かおう)” の例文
藩公の名には墨印と花押かおうがしるされているし、宛名あてなのところには「道次諸藩御老職中」と書いてあった。かねは顔色を変えた。
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
最近一世紀以来のすべての専制君主とすべての反逆人とは皆、不可変更のポーランド分割調書を作り、確認し、署名し、花押かおうしたのである。
老中松平伯耆守、同じく松平周防守、同じく小笠原壱岐守の名が書かれた。みんなが暗記する花押かおうまでその紙の上にしるされた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
料紙八百枚に自分の花押かおうを書いておいて、死後もなお、信玄死なずと、世に思わせておくように要意を遺しておいたという一事を見ても、いかに彼が
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何故、豊後ぶんご普蘭師司怙フランシスコ休庵シヴァン(大友宗麟)の花押かおうを中にして、それを、フィレンツェ大公国の市表章旗の一部が包んでいるのだろう。とにかく下の註釈を読んで見給え
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「クハンライコノ木喰五行菩薩事ハ」と書き起された文句、それに奥書おくがきの自署花押かおう、それが上人自筆の稿本であり、かつ自叙伝であるということは疑う余地がないのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ああ。あの系図に過去帳のことか。故人がそのときここで書いたに相違ないが、ワシに花押かおう
金高かねだかものでもあり、口が遠くて長くなる間に、どんな事が起らぬとも限らぬと思ったので、そこでなかなかウッカリしておらぬ男なので、その幅の知れないところへあらかじめ自分の花押かおうを記して置いて
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一木権兵衛政利 花押かおう
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
螺鈿らでん細工をする職人が、青貝の細片をたしかめるように、極めて念入りに読み、特に署名の文字と花押かおうとをよくしらべた。
という勝色かちいろの中にどよめいていたが、帷幕いばくのうちの光秀は、祐筆ゆうひつを側へひき寄せて、次々に書状をしたためさせ、それに自身が花押かおうして、また、側臣と何か密議しているなど、多忙と緊張の極に
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇和島うわじま少将(伊達宗城だてむねなり)の花押かおうまである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「筆跡を知らないから、文言で判断するほかはないが、この文言はたしかだと思えるし、一ノ関の花押かおうはまちがいない、よくやってくれました、このとおりです」
国目付は津田平左衛門(幕府使番)柘植つげ兵右衛門(同)という二人。墨印は将軍家綱の花押かおうで、朱印より重いものである。亀千代は抱守だきもりにかかえられて、表広書院おもてひろしょいんで二人に会い、墨印を受取った。