膝行いざり)” の例文
先方は意外に思ったらしいが、無視しているように思わせたくないと思って、一人の女が膝行いざり寄って来た。襖子からかみから少し遠いところで
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
葦叢あしむらをのぞき込むようにして膝行いざり出た禰宜様宮田の目には、フト遠い、ズーッと遙かな水の上に、何だか奇妙なものがあがいているのが写った。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
膝行いざり寄ったのは、小鬢こびんに霜を置いた五十前後の武士。花嫁の父、秋山佐仲というのでしょう、恰幅かっぷくの立派な、眼鼻立ちの整った、物言いの確りした人物です。
お倉お倉と呼んで附添ひの女子をなごと共に郡内ぐんないの蒲団の上へいだき上げてさするにはや正体も無く夢に入るやうなり、兄といへるは静に膝行いざり寄りてさしのぞくに
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ま、待たっしゃれ今燈明をける。」と膝行いざり歩きて、燧火マッチか、附木か、探す様子。江戸児えどっこれ込み、「こう早く教えてくんねえ。御前様が待っていなさらあ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼻の欠けたのや、目のクシャクシャや、跛足びっこや、膝行いざりや、膏薬貼こうやくはりが、おのおの盛装をらして持つべきものを持ち、哀れっぽい声を振絞って、江戸へ向って繰込むことのていが世の常ではありません。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
顎十郎のそばへ膝行いざりよると、大息をついて
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
くらくらんで附添つきそひの女子をなごとも郡内ぐんない蒲團ふとんうへいだげてさするにはや正躰しやうたいゆめるやうなり、あにといへるはしづか膝行いざりりてさしのぞくに
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)