腹匍はらば)” の例文
そのころ意地わるく南よりの風がかなりはげしく吹きだして、地上に腹匍はらばっているような恰好の気球はもくもくと揺れていた。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寝転んでいたほうもムクムク起きて、腹匍はらばいのまま櫺子れんじへ顔を乗せたものだ。これだから女の巣を食う町に無用な顔はして立ち止まれない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じりじりと照りつける陽の光と腹匍はらばいになった塚の熱砂の熱さとが、小初の肉体を上下からはさんで、いおうようない苦痛の甘美かんびに、小初をおとしいれる。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「おお」「おお」技術員たちは、甲板に腹匍はらばいになり、半狂乱になって、哀叫している。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
虎蔵は自分でも気付かないうちに身をかがめていた。床の上の華麗はなやか露西亜ロシア絨氈じゅうたんの上に腹匍はらばいになって、ソロソロとその寝台の脚下あしもとに忍び寄って行った。何故なぜともわからない焦燥を感じながら……。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夜分など机につてゐるとへんに息切れを覺え、それに頭の中がぱり/\と板氷でも張るやうに冷えるので、圭一郎は夕食後は直ぐ蒲團の中に腹匍はらばひになつて讀むともなく古雜誌などに眼をさらした。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
長吉は樽の上に腹匍はらばいになって、書きにくい字を書いた。そして一枚書けると、それを手帳からひきちぎって外に撒いた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
給仕ギャルソンがブリオーシュ(パン菓子)を籠に積み直してテーブルに腹匍はらばいになって拭く。往来の人影も一層濃くなって酒にくつろげられた笑い声が午後の日射しのなかに爆発する。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕は腹匍はらばいになった。そして、右腕をソロソロと穴の中に差入れていった。この行動はすべて真暗の中で行われた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人間は乳首を銜えて腹匍はらばっているところに値打ちがあるのではありません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして床に腹匍はらばいせんばかりにかがんで、扉をしずかに開いてみた。もし廊下に何者かの人影を見つけたら、そのときはピストルに物を云わせて、相手の足許を射抜くつもりだった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
北鳴四郎は、勇躍して高櫓の上にじのぼった。彼は避雷針下の板敷の上に、豪雨に叩かれながら腹匍はらばいになった。小手をかざして仰げば、避雷針は一間ほど上に、厳然と立っていた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
真暗なジャリジャリする石の階段を、腹匍はらばいになってソロソロと登っていった。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これではもう仕方がない、でも空気は冷え冷えと彼の頬をかすめている。それを思うと、まだ外に抜け道があるに違いない。彼は管の中に腹匍はらばいになったまま、ソロリソロリと後退を始めた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あぶない」仏は、屋上に腹匍はらばった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)