また)” の例文
すなわちまず海棠かいどう羞殺しゅうさいして牡丹を遯世とんせいせしむる的の美婦と現じて、しみじみと親たちは木のまたから君を産みたりやと質問したり
この同じ見せものにその後米国へ渡って、また偶然出くわした。これだけの特技があれば世界をまたにかけて食って行けるのだと感心した。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼女は赤ん坊が小便をしたといってはまたつねった。乳のみ方が悪いといっては平手で頭をった。それからすべての器物にも手荒く当たった。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
贅沢な機械でも見るやうに刑事たちが彼女を見たが、チタ子は憂鬱そうに、また火鉢した男の破れた靴下をみつめていた。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
天明三年、信州と上州とにまたがる浅間山が爆発して熔岩を押しだし、それが利根川の下流まで流れ溢れ、私の村の近くは火石の原と化したのである。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
やぶの中の黄楊つげの木のまた頬白ほおじろの巣があって、幾つそこにしまの入った卵があるとか、合歓ねむの花の咲く川端のくぼんだ穴に、何寸ほどのなまずと鰻がいるとか
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
生物線が万一何かの間違いならば、これは世界をまたにかけた世紀の千里眼であり、また今に本当に確認される日が来たら、生物学界の大異変である。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「まあ何をおっしゃるやら、さすがお国の諸所方々をまたにかけお歩きなさるだけ、お口もお上手でございますこと」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
繩を首の後ろから通して、胸の所で十字にし、それからまたの間を通し、後ろの両手に結びつけるのである。
石をんで人を埋めた石こつみの話、謡曲に残る谷行の作法などは、成年戒の苦しみの物語化したものである。天狗がまたを裂くといふ信仰も、此に関係がある様だ。
背の高い怪しい者が月の光を浴びて、こちらへ向いて大またに歩いてくるのが木の間から見えた。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ひとまたぎほどの細流のある他には川らしいものもなく、まったくの山家という感じだった。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三本目にうまくひっかかって木のまたの上へうまいぐあいに乗っかることができたのさ。
土の中からの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
師のねがふ事いとやすし。待たせ給へとて、はるかのそこくと見しに、しばしして、かむり装束さうぞくしたる人の、さき大魚まなまたがりて、許多あまた四四鼇魚うろくづひきゐて浮かび来たり、我にむかひていふ。
猹は身をひるがえして彼のまたの下からくぐり抜けて逃げてしまったのであった。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
しかし実のところは丁度その頃、内閣と海軍と太平洋戦とをまたにかけた世紀の大千里眼事件が起っていたので、この一文はそれを幾分でもい止めるために書いたものである。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)